湿気対策について⑭
- カテゴリ:日記
- 2026/05/15 12:08:12
▼良好な外部空間をコモンズとしてつくりだす屋内気候とまち内気候の調和
*湿気との闘いは宿命
日本は湿気の国といわれますが、建築家としてもよくわかる気がします。地図上で日本列島をヨーロッパに重ねると、北海道の北がミラノで、九州はモロッコのあたりと同じ緯度に位置します。
さらに、日本は偏西風の下にある。このため梅雨がある上に、冬にも大雪が降り、湿っぽい。気候が「どたばたする」と形容してもよいでしょう。
日本人は降雪を当たり前と思っていますが、日本のような豪雪は世界的にも類を見ないものです。北欧は寒い国だから雪が降っているだろうと我々は思いがちですが、これは間違いです。水源とそれを運ぶ風がないと雪は降りません。水源から上がった湿った空気が風に吹かれて山にぶつかったときに、降雨や降雪になります。この条件に合うのは日本以外では、トルコ北部、アメリカ五大湖周辺で、世界三大豪雪地帯と呼ばれています。中でも、日本で一年の積雪が3mというのは、群を抜いています。
湿気と暑さがある所は、伝染病や病害虫が発生しやすいため、人類はそれらを逃れて北へ移動したのではないでしょうか。ヨーロッパは緯度としては北に位置していますが、先に述べたような降雪の条件がないため、意外なほど冬は穏やかな気候です。だから文明はヨーロッパで開花したと考えることもできるでしょう。
北ヨーロッパに行くとおとなしい気候の所だなと、つくづく思います。暑さはもちろん、風がないせいか寒さもそうきつく感じません。もちろん暖房が発達していますから室内環境は快適なわけです。しかし、日本はそうはいきません。日本建築における湿気との闘いは、いわば宿命のようなものです。
それでも比較的文明的な地域として、日本が例外的に南に位置しているのは、夏が暑いとはいっても冬は雪も降り、極めて寒いので、いったんリセットされるからではないでしょうか。暑さも湿気も伝染病も病害虫も、冬の寒さでいったんリセットされる。「暑さ寒さも彼岸まで」で秋風や春風が吹くと救われます。
*屋内気候に注目するべき
湿気を完全にシャットアウトしようとしたら「完璧な閉鎖」を目指さなくてはなりません。オフィスビルのように、建物の気密性を高めることで「閉じた空間」を人工的に造り、室温を調整し調湿するという考え方が生まれます。この点は住宅でも同じで、完璧に湿度をコントロールしようと考えれば、完璧な気密空間を前提に考えざるをえません。住宅のいたるところが外に開いていたら、いくら湿度を抜いても効果がありませんからね。これが、現在の空調設計の考え方です。
しかし、気密性の高い空間で温度と湿度を調整すると膨大なエネルギーが必要なことも事実で、現在では閉じないオフィスビルを考えようという気運が生まれる時代になってきています。住宅も同じで、通気性を良くして調湿することが求められています。
湿気は住宅の中でも発生します。料理をしたり、汗をかけば部屋の湿度は上がりますが、最近では防犯上の理由で窓が開けられない場合が多くなっています。昼間は窓も玄関ドアも閉め切って、仕事から帰宅していくら換気扇を回しても、入ってくる空気がなければ空気は動きませんから換気はされません。
こうした場合、屋内の空気の質は、極めて悪くなっています。窓を開けない限り、一切の空気が入ってこないのは気密性が高いためです。こういう住宅が造られるのは、隙間風が入るようなあばら家を否定して住環境を良くしようとしたあまり、高気密高断熱を目指した結果です。
屋内の湿度、温度、空気の質、これらを「屋内気候」と言ってもよいと思いますが、これを良好に保つことは大いに注目すべき問題だと思います。
*戦後住宅建築と屋内気候
そもそも、日本の伝統的な民家では、外と屋内気候はつながっていました。戦争直後ぐらいまでは、大工さんがつくった、結果として湿気対応を旨としたスカスカの木造の家に我々は住んでいたのです。屋内で利用する熱源は炭でCO2やNOxが発生しますが、風がヒューヒュー抜けていくので、屋内気候を損なうことはなかったのです。
日本の住宅建築の一番の問題点は、この伝統的なスカスカの木造の家をやめて、問題が起きるたびにその場しのぎで対応してきたことにあるのかもしれません。
石油ストーブのように高カロリーの熱源を持つ暖房器具が登場すると、熱がどんどん外に流れ出てもったいないと感じてしまうようになる。そこでアルミサッシが登場します。その結果、気密にはなったけれど、断熱性は低く、窓ガラスが結露します。冷気が窓からやってくるからです。
もちろん、このことは壁の断熱、気密にもいえるのです。アルミサッシの採用はグラスウールによる壁の断熱につながっていきます。こうしていつの間にか日本の家は断熱、気密型の家に変わっていったのです。比較的開口部の少ないこうした家は、どちらかというと室内に熱が溜まりやすい北欧型=蓄熱型の家に近づいているともいえます。こうした家は夏の暑さを秋に持ち越し、いつまでも蓄熱しているから暑いままです。
高断熱とセットで奨励された高気密では、換気の機能が損なわれたために屋内の空気の質が悪化し、シックハウス症候群が生まれる下地になりました。こうした一連の対応は、形だけ欧米から持ってきて、風土を無視してきたことにあります。
パリやバルセロナなどヨーロッパでオープンエアレストランが繁盛するのは、なぜだかわかりますか? 彼等は石の住宅に住んでいるので、建物に夏の暑さが溜まり、特に秋は暑くて屋内にいられないからです。ひと夏をかけ暖められて蓄熱するので、いつまでも熱気が屋内にこもるのです。家の中を冷やす方法は換気しかない。開口部の小さい住宅に暮らすヨーロッパでは、温暖化の影響でエアコンが飛ぶように売れているそうです。
断熱性が高いほど文明的でいい、と思うのは勘違いです。OMソーラーでは、蓄熱を暖房に使うのと同じ発想で、放射冷却を利用して夜間冷却を行ないます。こういうことは、北欧に住んでいる人にとっては必要がないことなので、出てこない発想です。つまり、「この場」の良さを見出すことが、試行錯誤を続けてきた戦後建築が気づかなくてはいけないことではないでしょうか。
それでも、戦後20年ぐらいまでに建てられた集合住宅ですと、部屋の内部の仕切りは襖ですから、閉めたつもりでも、南の窓と北の窓の間には空気的なつながりができていた。それが壁で区切られるようになると、空気が抜けないという事態が生まれます。そうすると熱源を使う台所周辺は高温で高湿度な場所になります。
さらに、コンクリートの住宅というのは石の住宅と同様、蓄熱量が大きい建物です。この「コンクリートに熱が溜まる」という現象は、高度成長期以前の建築家の体験にはないし、研究者も同様でした。しかも分業で研究が行なわれているので、耐震の専門家は、屋内の温度や湿度には関心がありません。地震に強いということで、コンクリートの住宅を奨励しても、屋内環境という点ではどうかとは、検証されないできています。



























