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悪役令嬢チャレンジ.1 クラリッサ編


シュヴァルツブルク=ホーエンライヒ侯爵家の嫡子は、
その夜の社交場でも、いつもの通り、義務として微笑み、時に相槌を打っていた。
同じ称賛、同じ嫉妬―― 代り映えのない相手への侮りを隠して。

そう、音楽が始まるまでは。

最初の一音は、彼の注意を引かなかった。派手さも技巧もない、むしろ控えめな導入。
だが数小節が過ぎた頃、彼は気づく。自分の呼吸が、わずかに音楽に引きずられていることに。

――遅い。

そう思った瞬間、胸の奥が静まる。
いつもなら、間延びした旋律は苛立ちを呼ぶはずだ。
だが今夜の遅さは、待つことを強いるのではなく、考えることをやめさせる。

彼はふと、隣に立つ娘を見た。
彼女の存在は社交上の飾りにすぎない。家柄の差は明白で、これまで何度も、同じような娘を横に置いてきた。
名前も、声も、記憶に残らない存在。

彼女は、音楽を聴いていた。評価するようにではなく、身を委ねるように。

旋律が少しだけ上昇する。
高揚ではない。胸の奥に溜まっていた空気が、ゆっくりと押し上げられる感覚。
彼の中にあった漠然とした倦怠が、形を持ちはじめる。

――退屈だったのだ、私は。

その自覚が、彼を不意打ちする。
そして同時に、娘の横顔が、その退屈に対する答えのように見えてしまう。

和音が、解決されないまま保たれる。
一拍、二拍。
彼女の睫毛が震える。指先が、無意識にドレスの布をつまむ。

その些細な動きが、彼の心を強く打つ。
守りたい、という衝動ではない。理解したい、という欲望でもない。

――選びたい。

音楽は、彼の中の「選ぶ側である」という意識を、そっと刺激する。
この娘を選ぶことは、常識に反する。家にとって不利で、無意味で、愚かだ。
だが、だからこそ、その選択は彼自身の意思の証になる。

終盤、旋律が一度だけ跳ねる。
期待。まだ名を持たない感情に、名を与える直前の跳躍。

彼の胸が、熱を帯びる。
それは恋と呼ぶには未熟で、欲望と呼ぶには静かすぎる。
だが確かに、彼はもう、彼女の存在を「無視できないもの」として認識していた。

演奏が終わる。
拍手が起きる。彼は一拍遅れて手を叩き、その遅れに自分で驚く。

娘が彼を見る。
すぐに視線を伏せ、頬を染めた。

その瞬間、彼は決定的に理解する。
この感情は、偶然ではない。音楽が終わっても、まだ鳴り続けている。





少し離れた場所で、クラリッサは見ていた。

その夜の社交の場は、最初から彼女の掌の上にあった。
誰を招き、誰を近くに立たせ、どの順で音楽を置くか――すべては、クラリッサが事前に整えた配置だった。

彼女の背後、白いピアノの前に座る若者は、単なる余興の演奏者ではない。
彼はクラリッサが見出し、資金を与え、名を広めてきたピアニスト。

クラリッサの政敵の一人であるシュヴァルツブルク=ホーエンライヒ侯爵家の、嫡子の感情を正確に動かした。
呼吸の変化、視線の滞留、拍手の遅れ―― 恋は、その沈黙の中で成立した。

(成功ね)

彼女はピアニストに目を向け、静かに賞賛を込めて頷く。

この恋は、男を破滅させるには至らない。
けれど、判断を鈍らせ、家を悩ませ、時間を浪費させる。
それで十分。今はまだ――

クラリッサはグラスを傾け、今夜の調律の響きを、静かに味わっていた。






  ◆

悪役には違いないけど、どっちかっつーと影で動く感じねぇ (*´-ω-`)・・・
AIにタイトルを付けてもらったわw

#日記広場:サークル

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2026/01/13 22:21
なるほどなるほど
芸が細かいー(*゚▽゚ノノ゙☆パチパチ
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2026/01/13 21:31
読んでくれて、ありがとう~ (ノ≧▽≦)ノ この話、

① 彼女が庇護するピアニストが音楽を奏でる社交の場。
  その音が彼女の家のライバル的存在の家の息子を恋に落とす、というシーン。
  恋の相手は爵位の低い娘。仕掛け人はクラリッサ、という話を書いて~。
② 肉付けが欲しいな。男の感情の動きを加えて~。
③ ピアニストが奏でる音が、男にどう作用していくか、もちょっと丁寧にお願い。

と次々と注文を付けて、上記の3つを組み合わせて辻褄を合わせたんだ。
あんがい大変でした (((o≧▽≦)ノ彡
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2026/01/13 19:01
音楽で恋させるのかぁ
優雅でそれでいて狡猾というか…
京極夏彦の絡新婦の理の茜さんを思い出した
ステキステキ(❛ᴗ❛人)✧
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2026/01/12 21:13
なんとお美しい令嬢! うっとりしました~ (´∀`*)
恋心もコントロールできるとかすごいなぁ
吊り橋効果とか いろいろありますもんね
キューピッドだけど お家的にはありがたくないというw
 
招いた結果が決定的ではないのも好きですw
決定的なのを連続させると 気づく人も出るもんね
軽微なトラブルで長く疲弊させる というところが策士だ~
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2026/01/12 17:21
着実に策を練り上げ、音を使って実行する……
さすが調律師~♪
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2026/01/12 16:05
クラリッサ黒幕ー 婚約者に最後なんというのかな オペラとかで伝えそう



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