高市首相発言に対する中国の三つの戦略
- カテゴリ:ニュース
- 2025/12/10 17:37:24
■ 中国の「歴史戦」「法律戦(法理戦)」「国際情報戦」の特徴と、今回の高市首相発言への過剰反応の構造
今回の高市早苗首相による「台湾有事は日本の存立危機事態になり得る」という国会答弁をめぐり、中国が強い反発を示した背景には、中国が一貫して展開する「歴史戦」「法律戦(法理戦)」「国際情報戦」という三つの戦いが密接に関係しています。中国側の反応は単なる外交的抗議ではなく、これら三つの戦略が同時に作動した典型例と見ることができます。
■ 1. 歴史戦:歴史を政治目的のために再構成する戦略
中国の歴史戦は、歴史を“事実の積み重ね”ではなく“国家戦略のための物語”として用いる点に特徴があります。
まず、中国は歴史資料を客観的に扱うのではなく、現在の政治目標に合致する部分を抜き出し、合致しない部分は無視または切り捨てます。沖縄や台湾の歴史を「古来中国の領土」とする主張はその典型で、冊封体制を領土主権と同一視するなど、実証的な歴史研究とは異なる政治的解釈が優先されます。
日本に対しては「歴史を反省していない」「軍国主義復活」というフレームを繰り返し用い、現在の安全保障政策を戦前と故意に重ねて見せることで、国内世論と国際社会に日本批判の下地を作ります。この構造は反論しても終わらず、政治目的が維持される限り続く性質があります。
■ 2. 法律戦(法理戦):国際法を“外交カード”として利用する戦略
法律戦の特徴は、国際法を普遍的ルールとして尊重するのではなく、国家戦略の一手段として利用する点にあります。
中国は都合の良い条約や判決は強調し、不利なものは「不平等」「無効」と主張します。今回の「サンフランシスコ講和条約は無効」という中国側の主張はその典型です。条約では日本の台湾に対する主権放棄が明記されているため、中国の主張は論理的には日本の台湾に対する主権を認めることになり、台湾問題における「一つの中国」という中国の主張と矛盾します。それでも主張を続けるのは、法的整合性より政治的目的を優先しているためです。
また、中国は自国の国内法を国際法より上位に置く傾向があり、海警法や国家安全維持法を国外にも適用可能と主張するなど、周辺国への圧力としても利用しています。台湾問題についても「国内問題」と位置づけ、国際法上の議論を封じ込める枠組みを作ろうとしています。
■ 3. 国際情報戦(世論戦):国内外の情報空間を操作する戦略
国際情報戦は、今回の騒動で最も顕著に現れた領域です。
中国の情報戦の重要な特徴は、相手国のメディア報道を“第三者の証拠”として利用することです。今回、朝日新聞の記事がその材料として使われました。朝日新聞が高市首相の「存立危機事態」発言を報じた部分を、中国の官製メディアが引用し、「日本が台湾介入を示唆した」と拡大解釈して伝えました。その後、中国外務省や薛剣大阪総領事がその報道を根拠とする形で日本を批判し、中国国内のナショナリズムを一気に高めるという連鎖が生まれました。
この手法は、中国が以前から多用しているもので、日本国内の政治対立やメディアの論調を利用して“日本自身も認めた”という構図を作り出し、国際社会にも日本の脅威イメージを広める効果があります。先に強い印象を与える情報を流し、後から日本側が訂正してもイメージが残るという、情報戦の原則を巧みに利用しています。
また、中国は国営メディア、SNS検閲、外交部、在外公館、英語圏向けSNSアカウントなどを一体運用しており、国内宣伝と対外発信を連動させる高度なプロパガンダ体制を構築しています。
■ 4. 今回の高市首相発言への過剰反応が生まれた理由
今回の中国側の反応は、以下の三つの戦略が同時進行で動いたことによって強い過熱状態となりました。
・歴史戦では、日本を“軍国主義復活”の文脈に置き、国内外に危機感を煽る
・法律戦では、中国独自の条約解釈や「台湾は内政問題」という枠組みで日本を牽制する
・国際情報戦では、朝日新聞の記事を利用し、高市首相の発言を「日本の軍事介入示唆」と位置づけて拡散する
薛剣総領事の暴言も、こうした情報空間が準備された上で出てきたものであり、単なる個人的逸脱ではなく、宣伝環境が背景にあります。
■ 5. まとめ
中国の三つの戦略は、それぞれが独立しているように見えて、実際には相互に補完し合う形で運用されています。歴史の物語化、国際法の恣意的運用、情報空間の操作が組み合わされることで、相手国に圧力をかけ、国際社会の認識を変え、自国の立場を強化する構造が作られています。
今回の高市首相発言をめぐる過剰反応は、この三つの戦略が典型的な形で発動した結果であり、日本に対する情報戦の一断面として捉えることができます。
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台湾有事・高市発言「問題」は朝日・立民と中国共産党の合作である [2025 12 1放送]週刊クライテリオン 藤井聡のあるがままラジオ (Youtube)
https://youtu.be/8HBpkMN1c-E?si=kdIdCB2POp1ytXuM
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