Nicotto Town



風の根を植える

かつて私は、風だった。
額の丘を越え、誰にも触れずに過ぎる存在。
だがある日、風は問いかけた──
「お前の輪郭は、誰が決めた?」
植毛は、記憶の移植。
過去の森から一本ずつ抜き取り、
未来の地図に植え直す。
それは、自己の再構築ではなく、
自己の再演出。
カツラは、仮面のようでいて、
むしろ舞台そのもの。
頭頂に咲く黒い花は、
「私は私である」という宣言のように、
風に逆らって立ち上がる。
鏡の前で、私は二人になる。
一本一本の毛が、
「本物とは何か」と囁く。
その声は、
哲学者の沈黙より重い。
植毛は、時間の彫刻。
カツラは、空間の絵画。
どちらも、
「見られること」の美学に奉仕する。
だが私は、知っている。
この頭皮の下に眠る、
風の記憶を。
それは、
誰にも植えられず、
誰にも隠されず、
ただ、吹き続ける。

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