Nicotto Town



自作小説倶楽部9月投稿

『悪魔の盲目』


「初めて彼女を見た時、そこに光があったんだ。
薄暗いカフェの片隅でコークを前に彼女は瞳を閉じて音楽に耳を傾けているようだった。金色の前髪が長いまつげに交差して輝いていた。それだけでも目が離せなかったのに、彼女が目を開けると、開けた時は心臓が止まりそうだった。
まさか僕を殺せる人間がいるなんてね。
彼女のためなら死ねる。いや、普通に恋愛して、彼女と恋人になりたいんだ。
そうだ。プロポーズはどうしたらいい?
まず声を掛けろ?
それが出来ないから君に相談しているんだよ。
彼女のこと? ええと、最近海外から帰国してカフェの近くに一人暮らししているらしい。違うよ。店員に聞いたんだ。それ以上のことはまだしていない。
どこまで話したっけ、そう、彼女の瞳の色。地底の湖の色だったよ。例えじゃなくて青か黄色かを言えって? あえて言えば緑色かな。でも本当に一年前に仕事で潜った地底湖の色だった。
暗くて、冷たい。
ほかの特徴? 妖精のように可憐で輝いている。
身長? 5.5だな。靴は少し厚底だったけど誤差があっても0.01fit以内だよ。身体はかなり鍛えているようだった。ちょっとした仕草に無駄が無く綺麗なんだ。
あと、これが不安要素なんだ。店を出る彼女と一瞬目が合った。彼女は僕が見ていることに気が付いていたんだ。じろじろ見て感じが悪かったかな。どうしよう。
カフェの場所? やだな、アンダーグラウンドに決まっているじゃないか。仕事以外ではあまり出歩かないんだ」
   ◆◆◆
「本当にありがとう。
ところで情報料はいつもどおりでいいかな? 要らない? 
ああ、じゃあ次回の仕事の時にアンタを推薦するよ。
彼女とはどうなったって? 
彼女に名前を覚えてもらったよ。
まさか。まずはお友達からだよ。恋愛の手順くらいわかっている。
ところでね。お近づきになってますます彼女のことが好きになったよ。
彼女、強いんだ。
再会した時は男三人が彼女を囲んでいた。
けど、正拳で正面の男の顔面、返した手で背後、それじゃ弱いと判断して回し蹴り、 体勢を崩したように見せかけて三人目を足払い、から、肘打ち。一瞬だったよ。
俺ならどうしても武器を使うからね。
スピードと技で強いなんて、憧れるよ。
落ち着いたら、彼女が氷のような瞳で僕を見て、「あんた誰?」って訊いてくれたんだ。慌てて名乗ったよ。
一歩前進だよね」
   ◇◇◇
裏社会の仕事で知り合った、友達ではない「K」は組織のエージェントだった義父にマンツーマンで教育され、普通の学校には一度も通ったことが無いという。そのため仕事は出来るが、あちこち常識が抜けていて、かつ「普通の生活」にあこがれを抱いているようだ。
何故か大変ウザいことに一週間前Kは俺の事務所に来て恋愛相談を始めた。いくら暇でも敵対組織から「悪魔」呼ばわりされる男が頬を染め、うっとりとした目で恋の話をするのは、正直かなりキツい見世物だった。
そしてKの運命の相手の正体に気が付いてさらに驚いた。
「狂犬」のS嬢だ。
伝説の用心棒を祖父に持つ彼女は裏社会の爺さん連中からも可愛がられている。外見は俺の好みではないが、たしかに細くて金髪だ。爺さんたちの中で彼女は10年くらい前で時を止めているのだろう。しかし才能はしっかり遺伝し、彼女一人で一個中隊くらいの戦力になる。もちろん新兵でなく歴戦の兵士たちの軍隊だ。
最近、中南米、中国、中央アジアと長期の武者修行を終え帰国した。これまでKと接点がなかったのは彼女の修行癖のせいだろう。
どこが妖精だ。アマゾネスだろう。と盛大な突っ込みを心の中だけに止めた自分をほめてやりたい。

#日記広場:自作小説

アバター
2025/10/02 06:07
悪魔の盲目というから述者が悪魔かと思えば、対象者が悪魔で述者が盲目でしたか。
恋は盲目といいますよね^^
アバター
2025/10/01 18:33
結婚したら彼女とは喧嘩ができないですね ><



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