最期の夜月
- カテゴリ:自作小説
- 2025/09/07 02:59:12
第四十五章
寝室へと入るなり、彼はすっかり眠ってしまっている様だった。すやすやと眠っている彼の腕の包帯に目が行った私は、少し一緒に横になろうと思い、仕事着から部屋着へと着替え、私の方を向いて寝ている彼に向き合う様に横になった次第だ。彼の腕へと手を添え、ゆっくりと摩った。…ゆっくり大事にして行こう…そう思った私は彼の頬を撫でた。…やっぱり綺麗な顔…沢山の心の傷を持っているであろう彼の頬を撫でながら…私は彼を起こさない様にキスをした。彼は起きる様子もなかった為、…私はきっと彼の素直さや、優しさ、恐らく彼という「存在」が好きなんだろうな…と思う他なかった。頬に添えていた手をまた腕へと移動させ、ゆっくりと撫でた。…肇さんは色々と一人で沢山の辛さを抱えて来たんだろうな…そんな事を考え始めた私はベッドサイドの煙草へと手を伸ばしていた。横になりながら煙草に火を点け、彼を見つめ続け…私が何とかしてあげられるだろうか…そうだ、病院にも頼って私の出来る事全てを彼に注力して生きたい、そんな風に考えるようになった私だ。既に時刻は23時を廻っていた為、私は…明日も仕事だ…お風呂にでも入ろう…ゆっくりと吐き出した煙と共に、火を消し風呂場へと向かった。潮風に当たったせいもあったからか、ほんの少しの身体へと纏わりついていた不快感を流しにシャワーにする事にした。シャワーは本当にあっという間に終わってしまったが、不快感はさっぱりとしていた。私は髪の毛をタオルドライし、流石に寝室でドライヤーを掛けてしまうと肇さんを起こしかねない、そう思い寝室からドライヤーを洗面台へと持ち出し、そこで髪の毛を乾かし始めた次第である。私の髪の毛が乾く頃、寝室で物音がして…「…美月さん…美月さぁん?」と眠っていた筈の彼の声が聞こえて来た。私はドライヤーを持って、寝室へと向かった。…「肇さん?起こしちゃった?」と声を掛けると、彼は寝惚けた様に…「…んーん…何かやな夢見ちゃって起きちゃった…」と答えていた。…頭の中がきっとフル回転しているんだろうな…そう思った私は…「少し一緒に煙草でも吸う?」と誘ってみた。…あ「…あー良いね…美月さんと煙草吸うぅ」…「お白湯でも入れようか」と尋ねると…「うん…飲みたいかも」と返事を貰った次第である。…「ゆっくりで良いから肇さんのペースでリビングにおいで?」と彼へと声を掛けた。リビングへと向かう時に彼は…「…ちょっと着替えてから行くね…」と言っていた。…「うん、分かったよ」と返事をし、リビングへと白湯を作りに来た次第の私である。彼は着替えを済ませた様子で寝室からリビングへと来ていた。ほんの少しの疲労感も感じられた様に見えた私は…「肇さん、今日は疲れちゃったでしょ、ゆっくり過ごそう?」と彼へと伝えた。彼は素直に「はぁい」と目を擦りながら答えていた。