Nicotto Town



山は呼んでいる 後編 結び

昭雄と出会った時早速喧嘩のことを説く。その心の中では喧嘩の原因が自分のことにある、と思いながら…

頭を搔きながら苦笑し、昭雄、全く淡白だ。
「まあそういうこともあるがな、ちと頭にきていたから…・俺はあの女を少し知っている、いやな女さ。」
沈黙の後、ふいにしんしになり昭雄、
「こんな時に不謹慎かもしれんが… お前が俊夫をこんなことになったのを…何て言うか…はっきり言って俺はお前が好きだ。」
吃驚する冴子。 昭雄は俊夫と親友の間だ、そして3人いつもお互い親しく付き合ってきた。俊夫は少し美男で頭がいい、切れる秀才。昭雄はその反対。でもいつも仲がいい。そしていつも冴子が困っていたり、苦しんでいると飛んだ来て助けれくれる、良き相談相手。俊夫とのこともいつも相談に乗ってくれた、いわゆる兄のような存在だった。
「けどお前と俊夫が好きあっているのを知っているし、お前の気持ちもわかっている、・・だからそのまま黙って見ていたんだが…」
沈黙の後
「こうなったらはっきり言う、好きだ。…いや、いまはやめる、ただ少し考えておいてくれ」
冴子の心中で何かがドクンと流れ落ちた。思わず昭雄にしがみついてしまい昭雄を当惑させた。

俊夫は女と2,3日滞在し帰って行った。
その秋も終わりに東京で結婚した。

数年後
冴子は今は昭雄と結婚し、二人の子供がいる。恵一と満、やんちゃ子だ。
ある日その二人に連れられて一人の男がやってきた。
「お客さん!」と叫び「腹減った!」奥へドタドタ駆けていく。
「棚の中にお饅頭があるからね」と言い、二人の息子の後から入ってきた客に振り向き一瞬驚愕。おずおずと頭を下げて挨拶する客。
「久しぶりだね、噂に聞いていたけれど昭雄と結婚したんだね」とぼそり。
それは俊夫だった。そして朝昭雄が言ったことを冴子は思い出した。一人いい奴が来るが遅くなるがら少し相手をしてやってくれ、と少し思わせぶりな口調で告げられたことを。
「帰って来たの?奥さんは?」と冴子。
少し沈黙の後で俊夫、
いや一人…妻とは別れた…というか…」とぼそり「俺たち結婚してすぐにうまくいかなくなった…毎日言いあい、喧嘩ばかりで…そのうちあいつは男と駆け落ちしてしまった…」
「でも子供は?」
「あいつは子供が好きでなく作らんかった…」
沈黙。
どこか一抹淋しそうな俊夫に小さな憐憫の情がお冴子を。

そんな風に語り合っているところへ昭雄が戻ってきた。
「おい、これから草取りに行こう。一から新しく出発するならここでやっていけ」と軽快に俊夫に活を入れる昭雄。
「これからちと草取りしてくる、遅くなるかもしれんが食事頼む」
そして俊夫を連れて出ていく昭雄。とその後からこの会話を聞いた恵一と満がドタドタ飛び出してきて
「草取りけ、おいらも行く!」と小さな鍬を持ち出しその後から飛んで行く。

どこかおかしい、のどかな笑みが冴子の口元を浮かぶ。

田んぼ道を大きな二つの影と小さな影がのんびり歩いて行く。

その後俊夫は村で農作業に勤めた。俊夫の女房に逃げられた噂はのぼったが昭雄が介したのかすぐ消えてしまった。今では俊夫も村の青年団の熱い仲間になった。

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