山は呼んでいる 後編
- カテゴリ:自作小説
- 2025/08/20 14:36:17
東京での一日は結局俊夫に会えなかった。
聞くところによれば俊夫はそこにいなかった。誰にも言わず冴子はそのまま自分の胸に畳んだまま仲間と郷里に帰った。
一連の寂しさが冴子の心をしめつける。心のどこかでわかっていたこと…感じるが…
その一年後の6月のある日、俊夫の母、多恵が突然やってきて
「久しぶりだえ、としから手紙が来た。ちと読んでくれんかのう、なんかわしはえろう読めんで…」とはにかみながら。多恵の気持ちはよくわかっている、冴子の心を察しての心なのだ。冴子を大いに気に入っている彼女は日ごろからまるで娘のようにかわいがっていた。
そんな多恵の好意は嬉しかったがその心の内…一抹の寂しさが…
読みながら…手紙にはありきたりの内容ながら…日ごろの無沙汰、仕事のことが大半だった。冴子のことには何も触れていなかった。
このお盆に帰るのっけ?」とおばちゃん、目を大きくして叫び、次いでちょっと怪訝そうにつぶやくように言う。
「いつ帰るかないが…まあ昼頃が夕方だな」と。
いよいよ俊夫の帰る日、心曖昧におばさんの頼まれるまま冴子は俊夫を迎えに町の駅に。
時節柄町の駅はかなり混雑していた。不安と共に冴子は改札からやって来る人の群を眺める。
夕方になった、最終便が着く頃だ。
けれど俊夫の姿は…いない…と、周囲で何やらざわめき… 冴子もつられるように改札を…
と、かなりあか抜けて都会風の妖艶たっぷりの女と連れ立ってこの暑いのにスーツ姿で若い男が…
愕然とする冴子…それは俊夫だった。何かが音を立てて崩れ落ちる…
気が付いた時人目を避けるように冴子は飛び出していた。
もう初めからわかっていたはずなのに…でもショックと悲しかった。
俊夫が東京の女を連れてきたのはすぐ噂になりこの小さな町じゅう知れ渡ってしまった。俊夫の両親は冴子に心からわび、苦渋した。
盆祭りの翌日友人が啞然として伝える。
「知ってる? 昨日昭雄さんたら俊夫さんを殴ってさ、ちょっとした騒ぎだったんよ。 群会長がいなかったら一日豚箱にいられたかも」
」
冴子は昭雄にだった時喧嘩のことを説き、