花火大会の思い出
- カテゴリ:今週のお題
- 2025/08/05 12:26:38
どどーん。どん、ばしゅーっ。
光の後に音が響いてくる。体をずん、と音が通り過ぎる。
家の二階から、毎年花火の上がるのが見える。
今年も、音だけ聞いていた。
犬がいたころは、花火の音が怖くて涙目になって、ぶるぶる震えているのをなだめていた。雷もそうだけど、犬には怖いものだったらしい。
涙やよだれをだらだらこぼして、ぶるぶるしているのを、大丈夫だからと言ってだっこした。
母がたまにのぞきにきて、花火を見に外に出たりしていた。
犬たちがあちらにいってしまい、母の介護が始まってからは、空を見上げる余裕なんてなかった。聞こえてくる音で、あ、花火の時期なんだと思うぐらいで。
綺麗なんだろうなと思いつつ、音を聞いていた。
二日ほど前、この地区の花火大会があったらしい。音が聞こえた。
でも疲れてしまっていて、外に出る気力がなかった。
家の中で、どどーん、ばしゅーっ、という音を聞きながら、いろいろ思い出していた。
小さなころは、浴衣を着るだけでうれしかったな、とか。
妹と手をつないで、はしゃいで走り回ったな、とか。
かき氷や、りんご飴がほしくて、買って買ってとねだったな、とか。
花火の歌をコーラス部で練習したっけ、とか。
父も母も、若い顔で笑っていたな、とか。
ふるえている犬をだっこして、大丈夫、大丈夫と言っていたら、情けない顔で見上げてきて。花火が終わった後もくっついてきて、そのうち、いびきをかいて寝てしまったな、とか。
忘れていたことを思い出して、やがて音が消えて、静かな夜に戻った後、
もう一度思い出を、胸の奥にしまう。
覚えているから、なくならない。
明日も日常は続いている。へこむことも、泣きたくなることもあるけど、
思い出は、なくならない。いつもわたしの中にある。