とはずがたり~香~その3
- カテゴリ:日記
- 2025/04/27 20:43:55
昔から香り物は好きだった。歴史好きで寺社をまわるから、学生時代からお香の存在が近くにあった。京都へ行くたび、清水寺のそばにある松栄堂に行くのが楽しみだったし。お香だけじゃなくて匂い袋や練り香水も好きだった。
ただ、お香は火を使うので、とても好きだけど使いにくかった。丸一日家で過ごすなんて優雅なら良いけど、朝から掃除して、走りにいて、畑仕事して。そんな毎日だから昼間に優雅にお香を焚くなんてできるわけがない。夜は火のついたものがあるまま寝るなんて言語道断。加えて狭い部屋だとお香の煙としての臭いが気になる。松栄堂のお気に入りの香炉はあるけど、余裕がない。プレート式の線香立ても可愛くていくつかあるけど出番が無くてさみしいものだ。
そう言えば久しく京都には行けていない。オーバーツーリズムとコロナですっかり御無沙汰、遠い都。京都のお店やお寺でふっと香るお香は本当に素敵なのに、現実は厳しい。
そんなものだから、アロマオイルにヘアミスト、果ては自然と香水に辿り着く。火を使わず香りを持ち歩く。憧れは歴史と文化の空間かもしれない。
学生時代の香水はもっぱらコンセプト頼り。瓶の形がきれいだったり、所謂ファッションブランドで万人受け、モテ香水と言われるような、ドラッグストアやドン・キホーテに並ぶような香水だった。もちろん万人受けと謳う香水なので癖が無い。人前で付けていても、付け過ぎない限りはそこまで気を使わなくてよい。ブルガリ、エンジェル、エスカーダ、エルメス庭シリーズ、アナスイ等、まぁまぁ、学生がその辺で見かけて、ミニ香水が出ていたり安い部類。それゆえ香調は似通っているけど、コンセプト重視なので気にならなかった。
一番好きだったのは当時、既に廃盤になっていたゴーストのサマードリーム。フリージアとリリーが香る香水。当時はシトラスのハイトーンから始まる香りを見かけることが多かったので、サマードリームは別格だった。まず、ボトルのデザインが良い。水色の三日月が美しい。纏うと静かに花の香りが漂い、夏のトワイライトを思わせる、若しくは夜明けを思わせる感覚。
のちに香水を整理してしまうけど、これだけは1年前まで持っていた。流石に古くなり過ぎたので手放したけど、今ではプレミア価格で未使用品は15000円くらいする。当時は3000円くらいよ。未使用品と言えども保存状態が分からないので、香りが無事かは知らない。
それから社会人になっても香水瓶は飾っていた。またこの時に香りの強い柔軟剤も流行った。しかし、私はこの柔軟剤が合わなかった。使う時は良いのだけど、すぐに酸化したようなツンとした香りが出てくる。当時スポーツジムに行っていたが、会員の間で柔軟剤やコロンが流行っていた。しかし、ウェアから香る柔軟剤と思われる香りはやはり酸化したような香り。柔軟剤を使った衣服をそのまま保管すると、出した時にはツンとして臭い。結局柔軟剤は使わなくなり、今でも使っていない。
やがて転勤が続き、仕事上で香り物を使えないことから、香水を整理した。残したのは資生堂の梅の香りやゴーストのサマードリーム、エルメスの庭シリーズなどごくわずか。これを香炉などと一緒に箱に入れて、もう自分には縁の無いことと思っていた。
しかし、やはり好きなものはある日突然目を覚ます。2年ほど前にたまたま韓国芸能人のことを調べていた。所謂韓流を懐かしく思って検索していたら、芸能人の愛用香水の記事。よくある記事なんだが、そこで韓国の女優さんがトムフォードのヴェルヴェットオーキッドを使っていると書かれていた。本当かどうかは知らないけど。
そこから香水を調べ始めたら、まぁなんと時代の変わったこと。サスティナビリティなボトル、シンプルなデザインが美しい。レディース用、メンズ用なんて古い。ユニセックスが基本で、男性向けはマスキュリンと言う。昔もあったのだろうけど、ニッチ系が増え、価格も何倍だよってくらい高くなっている。今でも万人受けは初心者や香水をモテの道具として使う人たちには有効なんだろうけど、SNSで調べれば、香水愛用者になると万人受けの言葉を嫌い、香水の香りを柔軟剤に例えられることを嫌っている。
昔は香水のコンセプトやなんとなくの全体としての香り、フルーティーフローラルが好きだったけど、今改めて調べるほどに、この香料が好きだとか、濃度の高い方が使いやすいとか、あのブランドはきつい、このブランドは使いやすい。元がオタク気質なので調べるほどに深みにはまる。
今は好みの香料や香り重視で、ボトルデザインなんか気にもしない。高いので一つ一つ吟味して、ムエットを確認し、肌乗せをする。香りが最初から最後まで全部好きか、価格は、内容量は、不要な着色はしていないか(していても良い香りだと買ってしまうが)、天然香料か合成香料か、持続時間は、濃度は、輸出元はどこか。
ただ、あーだこーだ言っても所詮は香水初心者なので、日本人好みのフルーティーフローラル、いや、昔からの自分の好みは変わらない。ニッチ系を好むようにはなったけど、ドラッグストアで売っているようなフェルナンダのコロンも好き。
しかし、昔と香りの付き合い方は変わった気がする。香水の香りをしっかり楽しむために、それ以外のものは極力無香料を選ぶようになった。柔軟剤、制汗剤やヘアミストは使わない。ハンドクリームはユースキン一択で香りの強いものは避ける。そうすることで自然界の香りをはっきり感じ、花の香り、水の香り、季節の移ろいや食事それぞれの香りをしっかり感じる。その延長線に香水があり、その先に香炉から漂う煙がある。この先はいずれ最初に好きだったお香に向かっていきそうだ。