Nicotto Town


物書きに書かれたもの


新しいこと

 桜が散りだす季節。新生活が始まるこの春、俺の生活にも『新しいこと』が加わった。それは、例の神社への毎週の参拝。


(今週も一日無事に過ごせますように……)

 玄関に盛り塩をしたり、有名な神社でお札を買ってきたり、あの奇妙な体験からいろいろ対策を取ってみていた。このひと月、確かに効果を体感した。ただし、『悪い効果』だ。
 いわゆる悪霊対策なるものをしてからずっと、非常に気持ち悪く恐ろしい夢を見るようになったのだ。決まって場所は見知らぬ神社。空は赤く染まって、鴉の姿は見えないのに鳴き声だけが近くから聞こえる。夢の中の俺は家へ帰ろうとするが、神社の外へ出られた試しがない。最後には何者かに後ろから飛びつかれ、いつも驚いて目が覚めるのだ。

(……お守りください)

 この神社にお参りをするようになったきっかけは、玄関にあった盛り塩の皿を誤ってひっくり返してしまったときのことだ。その瞬間、ずっと感じていた肩こりや頭の重みがパアッと消えたのだ。一瞬何が起きたかわからなかったが、足元の崩れた塩を見て「まさか」と思った。
 その日のうちに部屋のお札も外し、週末にお焚き上げをしてもらうと、あの嫌な夢も見なくなった。久しぶりの快適な睡眠だった。
 それ以降、この神社の御祭神に感謝と畏怖の念を以て参拝し続けている。あの"神隠し"は未だに恐ろしく、仔細もわからないままだが、生活に支障が出る方がきつい。俺は存在も信じがたいような神の機嫌を損ねないよう、必死に頭を下げ続けるのだった。




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