最期の夜月
- カテゴリ:自作小説
- 2025/04/01 22:24:25
第十四章
…「美月さん…あの僕の服どこだっけ」と彼に聞かれた私は、…「えっと、まだ寝室にあるよ?」と答えた。…「あ、そっか…寝室入っても大丈夫?」と確認を取る彼に、…「これから居候して貰うんだから、ご自由に」と笑ってみせた。…「はは…ありがとう、美月さん」と彼も笑いながら、寝室へと向かった彼に一安心した私は、…「肇さん?私お風呂入っちゃうね」と伝え、…「はぁーい」と返事が返ってきた事に安堵し、風呂の準備をした。私もまた同様に寝室へと向かい、部屋着を漁り始めた。どれにしよっかなーと黒やグレーの服の中からチョイスして行く。その空間の中で彼もまた自分の服を漁っていた。昨夜着ていた重めのパーカーのポケットから鍵を取り出した彼は私に…「美月さん!僕、色々取ってくる!」と、とても軽やかに言いちょっと行ってくるね、とだけ笑った顔で私に伝えると彼は私の部屋を出て行った。…何だか少し明るくなったかな…私はベッドへと腰掛け、寝室の煙草を手に取り火を点けた。…本当に大丈夫だろうか…肇さんが戻って来てから風呂にしようか…色々と考え始めた私の思考と共に動く手に少しばかりの「不安」が過っていた。…ちゃんと戻って来る…よね?と嫌な感覚に襲われながら、煙草を吸う手が止まらない事に気付き、…香水でも…と私は煙草の火を消した。私の愛用品のキャロライナヘレナ…肇さんが良い香りだと言ってくれた…そんな事を思い出しながら、私は香水を纏っていた。それから30分程だろうか…私はベッドへと横になり、何となく香りを楽しみつつ、天井を眺め続けていた。…そういえば、肇さん朝私の身体に腕を回していたな…と今朝の事を思い出しつつ、きっと「元彼」さんにしていたのだろうな…とぼんやりと考えていた。いつの間にか手にしていた煙草の煙が部屋中に広がる頃、部屋のインターホンが鳴った。私は、少しばかり眠くなった思考の儘、身体を起こしモニターへと向かった。通話のボタンを押すと、然程大きくはないリュックを背負っている肇さんが映っていた。…あぁ、肇さん帰って来たんだ…と眠気が一気に目覚めた私は…「肇さん?空いてるから入って来て」と伝えると彼は…「あ、うん…ありがとう」と答えていた。玄関先へと私は彼を出迎えに行く。玄関前に付く頃、彼はドアを開けていた。…「た、ただいま…?」と苦笑いの様に笑う。私は満面の笑みで…「うん、おかえり」と出迎える事となった。…「荷物はまだあるの?」と私が問いかけると、…「ううん、これだけで良いんだ」と悲し気に言っていた。…「そっか」と私は返事をして、…「肇さん?これから、宜しくね」と笑ってみせた。彼も同様に…「暫くお世話になります」とお辞儀迄して笑ってくれていた。…「さ、上がって」と彼を部屋へとす。…「お邪魔します」と言いながら、靴を脱ぎ部屋へと入って来た。…「煙草でも一緒に吸おうか」と彼を誘うと、…「うん…」と言っていたが、何処かしらぼんやりしている様にも感じ取れる様子の彼に…「何か…嫌な事思い出しちゃった?」と尋ねた。彼は…「あぁ…ごめんね、美月さん…少しだけ、ね…煙草だっけ…」と少しばかり泣いたのか、赤くなっている目をしていた。…昨日の今日だもんな…そりゃ辛いよね…と私は煙草へと手が伸びていた。