Nicotto Town


なるべく気楽に気楽に~!


深淵の中の蝶


第三十一章

何だかいつもと違う悠さんに私は戸惑ったが、お酒を飲みたくなる日もあるのかなと思いながら、フラフラしている悠さんに、「大丈夫?」と声を掛け、「だーいじょうぶっすー」と少しばかり陽気にも不安定にも見えるような彼に、…「ここ、座ってて」と声を掛けた。…「由佳里さぁん、俺明日休みなんで一緒に飲みましょうよぉ」と誘ってくる彼に、…こんな事初めてだなぁと、何だか不思議な気持ちになった私だ。「たまには良いかもだね」と彼へと声を掛け、「お腹空いてる?」と私は尋ねた。彼は「今日は飯、なんか食いたいと思わないんすよねぇ」と返事を貰い、「そっか、とことん飲んじゃおうか」と彼へと笑い掛けた。「うぃーっす…」と何だかとても酔っている彼は気怠そうに答えた。彼の持ってきてくれたお酒を1本だけ取り出し、「私も頂いちゃって良いかな?」と聞くと、「飲みましょうよぉ」と誘う彼に「うん」と返事をし、1缶開ける事にした。ゆっくりと飲み始めた私達はなんでもない会話から笑い合うように過ごしていた。数本開けたお酒と共に私も思考回路がぼやーっとしている中、唐突に悠さんは、…「あのぉ、由佳里さんてぇ彼氏さんがいるんすかぁ?」と私へと尋ねた。…「んー?」と上手く回らない思考の儘に考え、…「彼氏ぃ?いないよぉ…」と答えた。
彼は何度も何度も「ほんとっすかぁ?」と確認作業を繰り返す様に聞き始めていた。私は何の事を言っているのか全く理解出来ず、「…本当にいないんだってぇ」とお互いに…「?」となる頃、彼は「俺、今日見ちゃったんすよぉ…由佳里さんと男の人が一緒にいるのぉ…」と、彼はなんとか切り出せたかのように本音を言い始めた様にも感じた。…「今日…」と私は考えを巡らせ、誰かと会ってたっけとアルコールの入った頭で思い出そうと必死になっていた。…「あー思い出したよぉ、あの人はねぇ兄とも言える存在の人なのぉ…」と漸く見付けた答えに彼は「…お兄さんっすかぁ?え?お兄さんともいえる存在ってどーゆー事なんすかぁ?」と当たり前に思う事であろう質問を受けた私は、何気なくだがこれはちゃんと説明しなければと思い、水を飲もうとふと思い立った。…「ちょっとぉ、待っててねぇ…お水飲ませてぇ」と白湯を作らせて貰う事にした。「あー俺にも水頂けませんかぁ…?」と彼は私へと問いかけた。「良いよぉ」とお互いゆらゆらと揺れる煙の中で真面目な話になっちゃうかなーとなんとなくだが、私は思い始めていた。少しづつ沸いてきたお湯と共に私も少しづつではあるが酔いが醒めそうになりながら、…「悠さんー?白湯で大丈夫そうー?」と彼へと疑問を問いかける。…「はぁい」とまだまだ酒を飲んでいた彼は、呂律の回りも悪くなりつつも答えてくれた。白湯をカップへと移し入れ、彼の前へと置き「どうぞ」と差し出す。…「ありがろぉございまぁす」と彼は答えていた。
私は白湯を半分一気飲みし、…「ふぅ…ちゃんと話すね」…と既に酔いが醒めようとしている頃、私は彼へと私の生い立ちや、結婚歴があった事、兄と慕っている蓮兄ぃの存在等々を話し始めた。長い時間だったのか、短い時間だったのかは覚えていない。只、悠さんが私の発する言葉達を真剣な眼差しで見つめてくれていたのは覚えている。




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