図書カードを落としただけなのだが(後編)
- カテゴリ:日記
- 2024/10/27 18:11:03
警察署の玄関をくぐると左側にすぐ落とし物窓口があった。
図書カードを受け取りに来たことを告げると「少しお待ちください」と言われたので窓口左にあったパイプ椅子に座る。幸い入り口付近でも冷房が効いていた。奥の階段から二人がかりで自転車を運んで来る日系人らしいお兄さんたちを眺めていると右側の扉が開き、図書カードと書類を持った婦警さんが受け取りの説明を始める。
免許証を見せて受け取り。
「これってF駅で拾われたんですか?」
「そうですね」
取り敢えず図書カードを財布に入れ、受取書に署名して帰ろうと思ったところで一枚の書類が差し出される。
遺失物法の規定により、あなたには、この物件の交付、提出又は保管に費用を要した者があるときは、当該費用を償還する義務があり、また拾得者に物件の5%から20%(施設内で拾得された物件については、拾得者と施設の占有者にそれぞれこの2分の1)に相当する額の報労金を支払う義務がありますので、これらを履行してください。
このたび、あなたにお渡ししました物件は、下記の拾得者(施設の占有者)に届けられましたのでお知らせします。
その文面の下には平凡な男性の氏名に固定電話の番号がある。
「相手の方が費用の償還を希望されましたので、必ず連絡を取ってください」
頭の中がクエスチョンマークで一杯になる私に婦警さんが苦笑を浮かべて告げた。
「はあ? え、っと、図書カードですよ。一円の価値も無いですよ。図書館に再発行してもらえばいいだけですよ??」
「駅から歩いて来たと言われまして」
うわ、面倒な人に拾われた。
前述したが、落とした駅と警察署は結構離れている。クーグルだと徒歩25分。嘘だよね? 本当ならよっぽど暇人。炎天下の昼も歩いて来たとかはあり得ないが、日が傾いても暑いことは暑いし、私が把握するルートだと照明も少なく暗い道になる。冗談にせよ、歩いたことに対して補償を求める時点でもう親切じゃない。
ここで警戒心Maxになってしまったため残念なことに拾得者の風体、届けた時間を確認出来なかった。というか炎天下の時間に届けられたら怖くて聞けなかった。
上記の規定の費用とはペットを保護した時に、餌を与えたとか、怪我をしていたから動物病院に連れていったとかの場合のことを言っているはず、物品の場合は何があるか考えたけど思いつかなかった。
「相手の方にもらてぃあさんの連絡先をお伝えしますから」
という婦警さんの言葉と苦笑を背に欝々とした気分で署を後にすることになった。
費用についてはあくまで「常識の範囲」なのだろうが、「常識」とはひとそれぞれだ。
昭和の時代に子供が会社の重要書類を拾得して、10万円の謝礼に対して親が「もっと価値があるはず」と裁判を起こしたという記事を読んで笑ったことを思い出す。その親にとっては裁判を起こしてでも多額の謝礼を得ることが「常識」だったのだろう。
少なくともこちらの自宅電話番号を知られる以上、一度は拾得者に電話して、相手の言い分を聞く義務が発生してしまうのだ。実家パラサイトでよかったと初めて思う。携帯電話しか連絡先の無い、さらには若い女性だったとしたら恐怖も増すだろう。
自宅に帰り両親に警察で渡された書面を見せて事態を説明。この時、何で何で? と母が取り乱したの却ってこちらが落ち着いた。
その場で自宅の電話から電話を掛ける。
「はい」
3コールで応答があった。年配の女性らしい声で安堵する。
「わたくし、らてぃあと申します。そちらはKさんのお宅でしょうか?」
「そうです」
「Kさんはいらっしゃいますか?」
「外に出てます」
どうやら、本人とすぐに話さなくても良くなったらしい。ここで、このオバサンに「費用」のことを説明しようかとも思ったが、間違いなく自分が不快に思っている気持ちが伝わりそうだし、そもそも徒歩25分の費用っていくら? 500円? こちらで提示するのも変だしと、単にお礼の電話として終わらせることにした。
「Kさんに図書カードを拾って届けていただいたようで、警察から電話をするように言われました。ありがとうございましたとお伝えください」
「はい」
失礼しました。と電話を切ってひと段落、
そしてたまーに思い出していたが、相手から電話が来ることは無く。秋の気配がする頃にやっと費用を請求できる1か月(これは後からネットで調べた)が過ぎたことに気が付いて胸をなでおろしたのだった。
みなさん、落とし物には気を付けましょう。