図書カードを落としただけなのだが(前編)
- カテゴリ:日記
- 2024/10/27 16:17:42
それはまだ酷暑の先が見えない、太陽が眩しすぎる日だった。
当然会社ビルから一歩も出ず、休憩スペースでランチを終えて、次の土曜日に自宅近くの市立図書館に本を借りに行こうと考えていた。
本を読まないと死ぬ病のため複数の図書カードを持っている。一番利用頻度の高いのが通勤途中の駅図書館なのだが、連日の残業続きのため返却BOXに本を返したものの新しい本を借りられていない。こういう時は休日に駅図書館に行くか、自宅近くの市立図書館に車で行く。ちょうど借りる本を検索しているところだった。
携帯がlineの着信を知らせたのだ見ると母からだった。
『市立図書館のカード、警察署に届いているそうです』
驚き顔のスタンプを返信して頭を抱える。タイミング悪すぎじゃない?
そういえば、一、二週間前の休日に駅で持っていたカバンの内ポケットに手を入れた時に市立図書館のカードが入っていたことに気が付いた。そのまま内ポケットに戻してそのままだったが、そのカバンは以降も休日に使っていたから、何かを出し入れする時に落としたのだろう。
名前が書かれているものだから地面に落ちていてそれが人目にさらされるのは気持ちのいいものではない。落とし物を届けるのは確かに善行で、社会に必要な道徳だ。わかっている。しかし、思わずにはいられなかった。
落としたままにしておいてくれればいいのに。
市立図書館は子供の頃から利用している。利用図書館の中で一番付き合いが長い。そして時々思う「このカードを作ったのは何年前だっけ?」と、
使っているカードの中で一番ヨレヨレなのだがシステムが古いままらしく同じカードが使い続けられている。せめて新しくしたいが、図書館に紛失したと嘘をつくのは、やはりやってはいけない行為だと思う。ちなみに一度紛失したかもと申し出してもすぐにカードを再発行してくれることはない。一度目は書類に記入を求められそれで本を貸し出す。次の返却日まで探して本当に無かったらやっと再発行される。というわけでいまだに古い古い図書カードを持っていた。
駅で落としたのなら、ローカルルールで目につくところに置いておくままでいいのに何でちょっと、というかかなり離れた警察署に届け出たのだろう? とも思う。例えばTOICA読取機の上のハンカチとか、駐輪場の柱に落とし物と書かれたメモとともに括りつけられた鍵。落とし主は大抵、駅をまた利用する。拾った人間もいちいち警察署に届けるよりは目立つところに置いて落とし主が気が付くのを待つ。
きっと名前が書かれていることを気にした、警察署方面に自宅のある人間が届けたのだろうと、その時はあまり気にしなかった。
家に帰って、母から警察から図書館に問い合わせがあり、図書館から自宅に電話があったこと、警察署の担当部署は平日のみ対応のため土日は受け取りができないことを聞かされた。ということは次の土曜日は図書カードなしで本を借り、たまたま私用で有休を取っていた月曜日に警察署に行かなくてはならないと知って、やっぱり面倒に感じた。この件で遺失物の受け取りについて調べたら受け取りが本人でない場合は『委任状』が必要とのこと、なら図書館で図書カード一時紛失に書面する方が簡単だった。
というわけで土曜日に市立図書館で貸し出しの時に見習いバッジをつけたスタッフさんに「警察署に図書カードが届けられてますね」と念を押されて取りに行かなくてはならないのかと再確認させられて、翌々日の月曜に用事を済ませると警察署に向かった。
警察の門をくぐってまず絶句。建物の前が駐車スペースなのだが、ところ狭しと車が並んでいる。地面のアスファルトがところどころ剥げ、埃っぽく、駐車スペースを示す白線もほとんど消えている。私が一番嫌なタイプの駐車場だった。
奥なら停められる場所があるだろうと、二列目の角を曲がって見たが、どう見ても奥までみっちり車が並んでいる。
皆、警察署に何の用があるんだ。
警察署の前なのに交通整理が出来ていないのか。
ここで、事故ったら立番してる、あそこの警察官が飛んで来る。
頭の中で文句がぐるぐる回り、奥まで車を進めて空きを探す余裕も無くし、バック。後から入って来た弁当屋の車に何度も頭を下げて警察署を抜け出した。
近くの文化施設に車を停め、日傘を差して徒歩で警察署に入る。
これで一件落着。。と本当にそう思っていた。
しかし、そうはならなかった。(後編に続く)