Nicotto Town



どっち?④


第四章

芙美は迷いながらも、母親に相談することを決めた。悩み続ける一人の夜が続いたが、誰かに話さなければ心の重さに耐えられそうもなかった。母親のいる居間へ向かうと、いつもと変わらない穏やかな顔で迎えられた。茶を入れながら「どうしたの?」と母は聞いたが、芙美の顔色から何か重大なことがあると察したようだった。

「実は私、妊娠したの」芙美はおずおずと告げた。母は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに微笑んで「まあ!おめでとう」と軽やかに声を弾ませた。しかし、その目には冷静な光が宿っていた。「それで、どっちの子?」母は茶化すように冗談めかして尋ねたが、その視線は鋭く芙美を見据えていた。

芙美はその視線から逃れるように目を伏せて、「多分、幸次郎の子だと思う」と小さな声で答えた。母の表情は変わらず、ただ少し首を傾げながら「彼、大学1回生でしょ。もうすぐ2回生になるんだよね。どうするつもり?」と問いかけた。

「昨日までは…伸行と結婚しようと思ってたの」芙美は肩を落としながら続けた。「幸次郎には、結婚するから別れましょうって昨日伝えたの」その言葉に、母は軽くため息をつき、茶碗を手に取って湯呑みの縁を指で撫でた。

「あなたって、罪な女ね」母は優しくも責めるように言った。「幸次郎君はどう言ったの?」

「彼は、ただ『え』って言っただけで、それ以上何も言わなかった。言葉を飲み込んで、黙って聞いてくれたの」芙美は幸次郎の沈黙を思い出し、胸が痛んだ。

「伸行には妊娠のことと結婚のことを言おうとしたけど、どうしても言えなかったの」芙美は目に溜まった涙を拭いながら続けた。「自分から幸次郎に別れを告げたのに、彼のことが愛おしくて一晩中泣いたの」

母は静かに頷いた後、真剣な眼差しで芙美を見つめた。「で、どうするの?最終的に決めるのはあなた自身よ」

「それがわからないから、お母さんに相談してるの」芙美の声は震えていた。

「相談してくれて嬉しいわ」母は優しく微笑んだ。「でも、やっぱり決めるのはあなた自身。私がどうこう言えることじゃない」

「わかってる」芙美は小さく答えた後、深い沈黙が訪れた。湯気が漂う中で、時計の針の音だけが静かに響く。

しばらくして、芙美は小さく息を吐き、視線を上げた。「もう一度、幸次郎に会って、正直に話してみる。そして彼の意見を聞いてみるね」

母は微笑んで頷いた。「それが一番いいと思うよ」芙美の決意を尊重するように、その言葉には温かさが込められていた。二人の間には、春の陽だまりのような静かな理解が広がり、芙美は少しだけ心が軽くなったような気がした。母の優しさが、彼女の背中をそっと押してくれたのだ。





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