【第8話】シン・ラジオ・ガール
- カテゴリ:日記
- 2024/09/29 21:36:15
「てことは、あなたは高校2年生、私と同じ年ってことね」
「あ、うん そうだね…」
「ラジオよく聞いてるの?」
「あ、うん そうだね…」
「今日は一人でイベントに来たの?」
「あ、うん そうだね…」
彼女はくすっと笑って此方を見る。並んで歩いている夏の夕方の舗道は案外人が少ない。
「え…ど、どうしました?」
焦って俺はどもりながら彼女を振り返った。
そしたら、彼女はちょっと笑ったような表情で
「さっきからずっと同じ返事だもん。ごめんね、でも、なんか笑っちゃう」
いかん いかんぞ。
実はさ、なんでこんな会話してるかって言うと。
ラジオのイベントが終わって、ベンチから立ち上がった時に、白いワンピース姿のソニーさんが手を振りながら俺の方へと近づいて来たんだ。
『初めまして パナさん。びっくりしたなぁ。まさかあの時のリクエスト返しした人も来てたなんて… ソニーです、よろしく』
屈託のない笑顔。笑うと目がなくなっちゃうのがまた新鮮で魅力的。
俺は何て答えていいか分からなかったよ。
想像してた通りの、素敵な女の子だしさ。
いや本当は想像してた姿なんて、ソニーさんを始めて見た時に消し飛んじゃったのだわ。
イメージが、今の彼女の姿に一気に上書き保存された感じ。
『あ、初めましてだね… 俺はパナです。よろしく』
笑顔返そうとして、頬が固まってしまいかなり妙な顔になっちゃったのは内緒だ。
俺たちはどちらからともなく、並んで駅までの道を歩き始めた。
女の子との会話って、そりゃマッキーや甲斐女子と会話することはあるけど、こんな感じで何か胸の奥が高まるようなシチュエーションって初めてなんで。
ほら、俺って年齢=彼女いない歴だろ?(知らんってばって?)
隣に理想に近い女の子と、肩並べて歩くなんてもう無理だよ。
「あ、ごめん。なんか緊張しちゃってさ…」
それでも俺は、精いっぱいのパワー振り絞ってたんだなぁ… うん
「そうなんだー でもね、パナさんのラジオネームってあれでしょ?パナソニック…のパナじゃないの?」
ビンゴです。はい。すみません。
あなたがソニーってラジオネームだから、それから連想して無理やり付けたのが”パナ”
もちろん東芝でも日立でもシャープでもよかったんだけどさ。
なんて言えなくて、あわあわと口ごもったりした。
お互いの間に、無言の時間が流れていく。
俺は恐る恐る彼女の横顔を盗み見る。
舗道の横を流れる運河の方を見ているソニーさんは、顔が麦わら帽子で隠れていて表情が分からない。
『会話もできねーコミュ障だとか思われてるだろうな… ま、しかたねーか。第一その通りだし。』
それからの俺たちは会話もなく、駅までの数分を並んで歩くことだけに費やしたんだ。
なんだか焦ってるような、でもそれでいて楽しい、矛盾した時間が俺たちの間を吹き抜けていくのが分かったよ。
「あ、私は上りホームなので… パナさんは?」
「俺は下りホームなんで…」
「そっか… じゃ、気を付けて帰ってね」
改札を抜けたところで俺たちは別れなきゃならなかった。
彼女は階段を上がって向いのホームに行く。
俺はこっち側のホームだ。
「ありがと、じゃあ…」
ヘタレの俺は、連絡先を聞くこともできずに、手を振った。
いよいよお別れか。
てか出会いって感じでもなかったんだけどな。素敵な出会い…って、そう思ってたのは俺だけだろうしって。
彼女が背を向け、階段を上がり始める。
逆光のなか、ソニーさんの靴音だけが俺の耳に響いてくる。
俺は、何もできずに黙ってその姿を見送っていた。
その時だ。
身体が揺れた。
めちゃくちゃ大きく揺れた。
目眩のような振動で、激しく上下に揺さぶられるのを感じた。
慌てて周囲見まわすと、吊り下げ広告が激しく揺れて、地鳴りのようなすごい響きが聞こえてきた。周囲の人たちもしゃがみこんだり、よろめいたりして。
地震だった。
それもかなり大きめの、揺れを伴う地震。
周囲から、誰のものともわからない叫び声が聞こえる。
ソニーさんは? 大丈夫か?
彼女が上って行った場所を振り返った時だった。
その時、白い影が階段を転げ落ちていくのが見えたんだ。
俺は夢中で走った。
「ソニーさんっ!」
大声で叫んだのは、ほんと真面目な話、無意識だったよ。
ソニーさんの被っていた麦わら帽子は吹っ飛び、階段半ばから転げ落ちて床に倒れ込んでいるのが見えた。
俺は反射的に彼女の傍に走り寄る。今考えたら、本当はそのころには揺れは収まっていたんだけど。
すっげー長い時間のように感じたけど、実は30秒程度の話だったらしい。
彼女は階段の下に倒れている。
揺れは既に収まってはいた。ざわめきの中、俺はソニーさんを抱き起こした
「だっ 大丈夫ですかっ?」
夢中で呼びかけると、彼女は薄っすら目を開けて
「うん…大丈夫… んっ!!」
腰を押さえて蹲る彼女。こめかみから一筋血が流れているのが分かって、俺は逆上したらしい。(後になって思い出すとね)
周囲見渡し、茫然と突っ立っている若い駅員に向かって
大声で叫んでたんだ。
「きゅっ、救急車呼んでください!」
(続く
普通に駅でお別れ…と思ってたので急展開に。。。
この先が気になります。
完全に彼女にもってかれたな~って思ってた前半は。
でも、地震?
も~連絡先きかないからとかなんとか思ったりして。。。
や、どうなるんだろう続き。。。