Nicotto Town


モリバランノスケ


奥会津の小蝶

今、小蝶とクワオは、古木アオモトドマの、(お元気で!)の声に送られ、銀河Expressに乗り込んだ所である。直ぐ、機長が、挨拶に来た。

機 (おはようございます。尾瀬はいかがでした
  か?。楽しみましたか?)
小 (尾瀬の美しい風景を、心行くまで堪能しま
  した。同時に、多くの想い出を創りました) 
機 (それは良かった)
小 (台風10号の影響で、ここ関東甲信越にも、
  線状降水帯が発生しています。交通機関に
  遅れや運休が。銀河Expressは大丈夫?)
機 (御心配には及びません。我が鉄道は、時を
  超えて、走っています。宇宙を縦横無尽に)

銀河Expressの窓からは、何処までも続く蒼い空が、拡がっているのが見えた。その理由は、台風の源である、雲上を走っているから。しかし
、それは、真の理由には成らない。物理的宇宙ではなく意味的宇宙を走っているからなのだ。

続いて、Waitressが、回って来て、 (何か、お飲み物は如何ですか?)と、語り掛ける。

小蝶は、OrangeJuiceを、クワオは、AppleJuice
を、頼んだ。解放された気分で、心から旅を愉しんでいる。間もなく、次の目的地、奥会津に到着する。駅長の枯木大スギが、歓迎の言葉(待ってましたよ)を添えて、二人を迎え入れた。

小蝶とクワオは、日本の原風景とも言える辺りの景色に圧倒され、終始無言のままだ。幾つもの、民話風伝承が残る、ここ奥会津。会津弁も、その地では、言葉の語尾に、京言葉を想わせるイントネーションが残っていると言う。森を縫う様に、只見川が流れ、漂う露天風呂の湯煙が情緒を誘う。

二人は、枯木大杉の枝から、空に向かって飛び出す。どちらが言い出した訳ではなく、湯けむりに誘われた、と言うのが正直な所かも知れない。何故ならば、それが、何処か郷愁を誘う場所を指し示す様な気がしたからだ。

今、小蝶とクワオは、湯気が立ち込める露天風呂と只見川を仕切っている大きな岩石の上に止まっている。湯けむりの中、一人の若者の姿が認められた。彼は、学生である。仮にT君と、しておこう。どうやら、休暇を利用して、心と体の休養を兼ねて、秘境の旅を、楽しんでいる様子である。

そこに、一人の少女が入って来る。この風呂場は、部落の公衆浴場であり、混浴である。T君は
、突然の事で下を向きドギマギしている。その光景は、青春の一コマをの様な、微笑ましい瞬間として、湯けむりの中に映し出されていた。

小蝶とクワオが羽を休めている岩の上に、僅かな窪みがある。そこに、温泉水が溜まっていた。二人は、足湯をするのに、格好の場所と考えたのだろう。そこに足を下ろし、湯を愉しんでいる。風が通り抜けて行く。湯けむり、川のせせらぎ、木々の深緑、棚引く川霧、辺りの古民家、を溶け合わせた、懐しい風景である。

少女が、湯煙の中から、岩の窪みで足湯を愉しんでいる小蝶に話し掛けてきた。

少 (あまり見慣れない顔。この辺の方ですか?)
小 (そうでは有りません。旅の者です)
少 (マァ!。未だお若いのに、素敵なこと)
小 (私は、アサギマダラの小蝶と申します。
  旅をするのは、宿命なのです)
少 (なんて奇遇なの!。私の名は蝶子)

少女は、こう言うと、次の様に語り始めた、

⊕私は、ここで生まれ育った、奥会津ッ子。
現在は、東京で芸術の勉強をしている学生です。ここは、先祖代々が、歴史を刻んできた大切な場所です。今も、明治大正の香りを感じさせる古民家が、数多く残されています。

私の実家も、その一つ。両親が住んでいます。父は、村役場に勤める公務員です⊕

蝶子は、ここ迄話すと、小蝶に向かって、(貴方達は、Breakfastは、未だでしょう?。私の家に
、来ませんか?)と、誘いの言葉を投げ掛けた。
小蝶が、(見ず知らずの私たちが、お邪魔しては失礼ではありませんか?)と、心配そうに返事をする。側で、二人の話を興味深げに聞いていたT君が、(私も同行したい)と、同意を求めてきた。

露天風呂から上がる。小蝶、クワオ、T君は、蝶子の後について行く。川沿いの公道から、脇道に入る。そこから、なだらかな坂になっていて緑のトンネルが続く。そこを抜けると、合掌造りの古民家と、真新しいログハウスが建っていた。

蝶子は、ログハウスの方に歩いて行き、(ここは母がやっているCafeなの)と、森のCafeと描かれた看板を指差し、説明する。そして、Doorを開けると、(友達を連れてきた)と、子蝶、タカオ、T君を紹介し、中に招き入れた。

店内には、程よい音量の、BGMが流れている。それは、タンゴ、ジャズ、それとも?、識別できないが、軽音楽のリズムである。子蝶、タカオ、T君の三人はカウンターに座った。Madameが中から、(いらっしゃい)と、笑顔を見せた。

そして、互いに自己紹介をする。

マ (蝶子の母です。よろしくね)
子 (アサギマダラの子蝶です)
ク (オオクワガタのクワオです)
学 (学生のタケオです。露天風呂で、蝶子さん
  子蝶さんの話に惹き込まれて同行しました)
マ (子蝶さんは、どうしてこちらに?)

Madamは、こう言うと、心のなかで、(ひょっとしたら、この子はお蝶の子供ではないかしら!)
と、考えている。小蝶は、Madamの心中のそんな想いに、応えるとでも言うかの様に、喋り始めた。

⊕私は、旅をするのが宿命なんです。生まれ故郷は、千葉県の南房総。そこから、先ず、母の故郷である宮古島に行きました。続いて、沖縄県読谷、大分県日田、香川小豆島、岐阜県郡上、静岡県浜名、都西高松山、都下田浜山、房総小多喜、そして、生まれ故郷南房総で羽を休め、尾瀬にお邪魔して、先程、こちらに着いたばかりです。⊕

Madamは、小蝶の話を聞くやいなや、確信したかの様に、(貴女は、お蝶の子供ですね。そうよね!)と、呟いている。小蝶は、(私の母を知っておられるのですか?)と、言葉を発して、驚きの表情を隠さない。

Madamは、小蝶のそんな気持に答えるかの様に
、語り始める。

⊕お蝶は、この地方の気候風土、古くから培ってきた陶器、漆器、竹木工等の民藝に心惹かれた様でした。また、平家の落人伝説をはじめとする伝承民話にも、興味を持ち始めたようでした。

この地方は、冬の五ヶ月間は、雪に閉ざされます。その様な気候環境に、育まれた文化なのかも知れません。会津藩の御用達だった事も、大きな影響を与えました。貴方のお母さんは、ここに滞在中、それはそれは楽しそうでしたヨ。

そう、こんな事も、在りました。このCafeで、部落の古老による、民話の会が開かれました。
この地で非業の死を遂げた父を追ってきた貴族の姫に、土地の若者が恋をする話。叶わぬ事と
諦めていた若者だが、その姫のために自分の命を捧げる覚悟を決めた時、それを成就させたのです。お蝶は、涙を流して、聴いていました⊕

子蝶は、母の想い出を聴きながら、考えている。母は、その後、北国への旅の途中、光様と出会い、恋へと。函館五稜郭で結ばれる。

しかし、光様は、非業の死を。

私も、そんな恋愛をしたい。

自分には、相手に命を捧げる、覚悟が有るのだろうか?。




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