Nicotto Town



小説「どっち?」


久し振りに物語が浮かんだので日記に投稿します。

まだ第一章しか書けていません。

「どっち?」

第一章

春の足音が近づく嵐山の街は、観光客で賑わいを見せていた。桜の蕾もほころび始め、新しい命の息吹を感じさせる。しかし、芙美の心の中は春の暖かさとは裏腹に、複雑な感情が渦巻いていた。芙美は、少し戸惑いながらも慎重に話し始めました。「志保、ちょっと長くなる話だけど、今いいかな?」志保は軽く頷き、「もちろん、何があったの?」と促しました。「どうやら私、妊娠したみたいなの」芙美の言葉に、志保は一瞬驚いた様子を見せましたが、すぐに笑顔で「おめでとう、なのか、それとも大変ね、なのか…」と返しました。「そうなのよ。嬉しいけど、同時に大変なの」芙美は微妙な表情で続けました。志保は少し考え、「どっちの子供なの?」と静かに尋ねました。「多分、幸次郎の子だと思う」芙美は少し間を置いてから答えました。「あの大学1回生の年下の彼ね?」志保は驚きと共に問いかけました。「そう。だけど、結婚するのは商社マンの彼、伸行さん」芙美の声は微かに震えていました。「前から大学卒業したら結婚してくれって言われてたの」芙美は少し視線を落としながら続けました。「でも、幸次郎の子供だと確定したわけじゃないの。産んでみないと分からない。」志保は深く息を吸い込んでから、「それは…一つの賭けだね」と慎重に言葉を選びました。「幸次郎くん、悲しむだろうなあ…」「彼には本当に申し訳ないけど、仕方がないの」芙美は辛そうに目を伏せました。「彼と別れるのは、とても辛い」「彼、とてもいい子だって言ってたもんね」志保は慰めるように言いました。「本当に優しいの。自分の目標に向かってひたすら努力する子で、言動にも一貫性があるの」芙美の声には、まだ残る未練が感じられました。「確か、京都大学だったっけ?」志保が思い出すように尋ねました。「うん。東京大学にも行けたけど、東京は、家賃が高すぎて諦めたって言ってた」芙美は静かに答えました。「伸行さんは、確か元ラガーマンだったね」志保が話題を変えるように言いました。

「そう。彼は同志社大学でラグビーをしていて、今は大阪の商社に勤めてるの。27歳」芙美は少し微笑みながら答えました。「結婚したら、どこに住むの?」志保が興味を持って尋ねました。「京都の実家の近くかなあ。嵐山で母が土産物屋をやってるし、何かと便利だから」芙美は将来の計画を話し始めました。「彼の通勤も阪急京都線で1本だし」「でも、どっちの子供かはドキドキだね」志保は微かに笑いながら言いました。「そればかりは神様しかわからないね」芙美は少し肩をすくめて言いました。「卒業式の後、謝恩会が終わったら、食事でも行こうね」芙美が提案しました。「3日後だね」志保は少し微笑みながら答えました。「長々とごめんね、忙しいのに。じゃあ、3日後にね」芙美はそう言って電話を切りました。電話を切った芙美は、窓の外に広がる嵐山の景色を見つめた。新しい命と、新しい始まり。何が待っているのかはわからないけれど、春の風がすべてを包んでくれるような気がした。


芙美は、ふとお腹に手を当て、その温もりを感じながらスマホを手に取った。そして、幸次郎に短いメッセージを送った。「今日会える?」

幸次郎からの返信はすぐに届いた。「15時に講義が終わるから迎えに行こうか?」彼の言葉にはいつもの優しさが滲んでいた。芙美は微かに微笑んで、「じゃあ、家で待ってるね」と返信し、シャワーを浴びるために浴室へ向かった。今日が、幸次郎との最後の日になるかもしれないという思いが胸を締めつける。

芙美と幸次郎が出会ったのは、芙美がアルバイトでバーテンダーをしているおしゃれなカフェバーでのことだった。芙美が先に働いていたその場所に、後から幸次郎がアルバイトとして入ってきた。明るくて真面目な彼は、わずか一か月でほとんどのカクテルの作り方をマスターし、自信を持って客に提供するようになった。

その姿は、まるでトム・クルーズ主演の映画「カクテル」の一場面のようだった。芙美と幸次郎が息を合わせ、次々と華麗にカクテルを作り上げる様子は、カウンター越しに多くの客の視線を釘付けにした。二人の相性は抜群で、客たちはいつも彼らのコンビネーションに魅了されていた。

自然と二人は人気者になり、その延長線上で恋に落ちるのもあっという間のことだった。芙美が大学四回生で22歳、幸次郎は大学一回生で19歳。二人には一つの特別な共通点があった。誕生日が四月四日、同じ日だったのだ。それを知った瞬間、二人は運命を感じ、笑いながら誕生日に祝杯をあげたことを、芙美は今でも鮮明に覚えている。

しかし、今日という日が訪れることを、当時の二人はまだ想像すらしていなかった。芙美はシャワーの水音を聞きながら、心の奥にしまい込んだ幸次郎への想いをそっと振り返った。過ぎ去った日々が、次々と頭の中で鮮やかに蘇っては消えていく。今日は最後の一日になる。そう自分に言い聞かせながら、芙美はゆっくりとシャワーを浴び続けた。




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