トノスカとマカ 12
- カテゴリ:自作小説
- 2024/08/07 08:19:38
全てハッタリだった。
さっき男たちが鍾乳洞に入ってきた時、マカが一瞬でどこかにとっさにレシピを隠したのはわかっていたが、トノスカもペスカトーレとアーシャンも、マカがどこに隠したかわかっていなかった。もしかするとそれはマカのズボンのポケットかも知れなかった。
もしそうなら、マカのズボンをちょっと探られたらすぐにバレることだった。
しかし、今、レシピを渡したら、必ず4人とも確実に殺されてしまうだろう。
金で買おうとしてるのは間違いなく嘘だ。
レシピを渡した瞬間に殺される。
やつらは探す手間を省きたいだけだ。
4人をこの洞窟から無事に帰らせるほどストロベリーの連中は甘くないことをトノスカはわかっていた。
今、レシピしか、トノスカたちに武器は無かった。
トノスカは続けた。
いいか、ここはまずおれたちを解放するんだ。帰ってから、レシピを渡す条件をじっくり相談する。期限を決めよう。
そうだな、来週の火曜日だ。
それまでに条件を決めて、レシピを在り方を教えてやるぜ。
いいか、ステーキのレシピはおれたちのものだ。こんな確実な儲け話を手放すんだ。金だけじゃねえ、それ相当の条件を飲んでもらうぜ。
おれたちを今殺して、見つかりっこないレシピを自分たちで探すか、来週の火曜まで待ってレシピを確実に手に入れるかのどっちかだ。選べよ。
あざの男は、身動きせずにじっとトノスカを見つめ続けている。
あざの男はしばらくトノスカの目を見つめてから言った。
嘘だな。
お前の言ってることは嘘だ。
お前は相棒がどこにレシピを隠したかわかっていないか、ごく簡単なところに隠してある。
その男のポケットの中とかな。
しかし、その男の目にはわずかに奇妙な自信を感じる。
お前がハッタリをかましてるのは確かだが、その男の目が気になる。
おい、お前だよ。
あざの男はマカを指差した。
マカは何も言わなかった。
何も言わずにただあざの男を見ていた。
あざの男はまたしばらくマカの目を見つめてから、言った。
いいだろう。
お前らの提案を飲んでやる。
今回だけだ。
火曜日じゃない。月曜日まで待ってやる。
月曜日の今日と同じ時刻にここに来い。それまで誰かにこのことを漏らしたら、すぐに皆殺しだ。
いいか、お前が何か企んでいることくらいわかっている。
何かおかしな動きをしたらすぐに皆殺しだ。
トノスカはあざの男がきっと月曜日に早めるだろうとわかっていた。こちらの条件を一つでも変更することで、こちらに全ての主導権を握られるのを嫌ったのだ。
だから、トノスカは最初から5日後の火曜日と言ったのだった。1週間では絶対に相手が飲まないとわかっていたし、1日2日では何もできないかも知れない。ギリギリ4日は猶予が欲しかった。
わかった。来週の月曜日の今と同じ時間だな。それまでに条件を相談しておくさ。
トノスカはそう言って、鍾乳洞の出口へ向かって歩き出した。
マカとペスカトーレとアーシャンも後に続いた。
背中にあざの男がじっと見ている視線を感じていた。
4人は何も言わずに洞窟を出た。
全員、服の下にはじっとりと嫌な匂いのする汗をかいていた。
4人はそのままペスカトーレのレストランに戻った。
どっと疲れて、みんなレストランの椅子に倒れるように腰かけた。
一杯やろうぜ。。
そう言ってペスカトーレは立ち上がって、ウイスキーとグラスを持ってきてくれた。
4人はストレートでウイスキーを一気に喉に流し込んだ。
。。。ふ~~~~、っと大きく息を吐くと、口にタバコをくわえながらトノスカがマカに言った。
。。で、どこにレシピを隠したんだ?
マカもため息をひとつついて、タバコに火をつけて、トノスカを見ると、少し笑って言った。
レシピはもう鍾乳洞には無いさ。
ペスカトーレがもう一杯ウイスキーをグラスに注ぎながら言った。
やっぱりお前が持ってんのか?
いや、おれももうどこに行ったか知らないぜ。
マカは可笑しそうに言った。
トノスカが言った。
どうゆうことだよ?マカ、説明しろ。
はは、レシピをどっかにやったのはおれじゃないさ。あのあざの男が自分でどっかにやっちまったのさ。
マカが笑いながら言った。
今度はアーシャンが聞いた。
それで、どうしてあの男がレシピを持ってたんだ?
マカは可笑しそうに笑っているので、トノスカが言った。
おい、マカ、笑ごとじゃねえぜ!
悪かったよ。
あの缶は蓋の裏のところのアルミが二重になってんだ。たぶん、豆の汁が漏れないようにそう作られてるんだろうな。
ちょっと爪を引っ掛けると、2枚のアルミの間にちょっと隙間が出来るのさ。おれはガキの頃、よくそこに金を隠して地面に埋めておいたもんだ。
今、あの缶はどこにあると思う?
ペスカトーレが言った。
缶はあの男が捨てたぜ!川に落ちて、流れていったはずだ!
そうさ、あの男は自分が探してるレシピを自分で捨てちまったのさ。
あの小川はたぶん、鍾乳洞の地下からどっかでレンブラント川に続いてる。あの洞窟から南側がちょうど森から落ち込んでいるからな。レンブラント川はキースランドの西にある沼に続いてる。今ごろ川の途中のどっかに引っかかってるだろうよ。
マカがそう言うと、ペスカトーレが言った。
そいつは傑作だな!
やつは一旦手にしたレシピを自分で捨てやがったのか!
レンブラント川はやつらよりおれたちのほうが詳しいぜ。
ガキの頃から知ってるからな!
どうする探しに行くか?
ペスカトーレはみんなを見た。
トノスカが言った。
いや、レンブラント川には行かない方がいいぜ。やつらは月曜日までおれたちを見張ってるはずだ。
今だって、店の外にストロベリーのチンピラが張り付いてるはずだぜ。
ペスカトーレが言った。
じゃあ、どうする?
レシピが無ければ、やつらに抵抗できないぜ。何か案はあるのか?トノスカ?
トノスカは鍾乳洞であざの男にハッタリをかました時、本当は何のアイデアも無かった。
とにかくその場から4人でどうにかして逃れることだけに必死だったのだ。
トノスカはそのまま正直に言った。
おれもどうすりゃいいかわかんねえ。だけどな、おれたちがどこにレシピがあるかってことを知ってるだけでもまだこちらにも分があると思うぜ。
それはわずかな勝機に過ぎなかったが、今はそう言うしか無かった。
それまでじっと話を聞いていたアーシャンが言った。
いいかい?どちらにしても状況は変わらない。
レシピの在り方をやつらに教えても教えなくても、どちらにしてもね。やつらは月曜日にぼくたち4人とも殺すつもりさ。必ずね。
それまでに何か考えなくちゃね。
トノスカが言った。
そうだな。わかってる。
その夜は、何も思いつけないまま、とりあえずそれぞれの家に帰ることにした。
確かに。おれもこれ書いてる時、そう思った〜(^o^;)