Nicotto Town


モリバランノスケ


瀬戸の小蝶

今、小蝶、クモ吉、それから、クモ姫.は、ログハウスの中に在るカフェで、寛いでいる。店内には、軽快なジヤズのBGMが流れていて、そのリズムは、カフェの明るい雰囲気にピッタリとフィット。小蝶は、曲に合わせ、軽く体を動かす。

カウンターの中から、Madamが、(何にいたしますか?)と、聞いてくる。そして、(お勧めは、主人が庭のハウスで育てている国産コー匕ーと、関連する品々)と、前置きして、小蝶には、(コー匕ーの白い花から採れた蜂蜜はいかが!)、クモ吉とクモ姫には、(コー匕ーの皮の粉末はいかが!)と、明るく、爽やかに、語り掛けた。

窓からは、幾つかの島々を列ねるように、白砂の浜辺が見渡せた。海が干潮の時に、姿を見せる、と言うから、今正に、その時なのだろう。
砂浜を歩き、小島に渡る、カツプルの姿が。恋が成就という、伝説が在り、恋人達の聖地だ。

小蝶が、クモ吉とクモ姫に、何やら語り掛けている。どうやら、(あなた達も、あの白い砂浜を歩いて来たら?)と、言っている様。実は、日田の街で、二人は出会い、互いに一目惚れしたのである。それが、クモ姫が、ここに居る訳なのだ。

カウンターの中から、Madamが小蝶に、話し掛けてきた。

マ (何処から、いらしたの?)
小 (大分県日田からです。今朝、銀河Expressで)
マ (こちらへ、いらした事は?)
小 (初めてです。良い所ですね!)
マ (そうでしょう!。若い人達に、人気よ!)

Madamは、彼等が当地を初めて訪れた、と知ったからか、この地にまつわる話をしてくれた。

○児童文学者のTSさんは、ご存知?。彼女の作で、島の分校を題材にした作品が在ります。

内容は、とある島の分教場に赴任した、女先生と12人の生徒との、暖かい交流を描いています。作品の中では、場所は特定されていませんが、著者の出身地が、この島なので、ここであろうと言われています。映画にも成りました。

実は、このカフェの在るログハウスは、物語の中の分教場が在ったのではないか思われる場所に、建てらているのです。

今から90年程前、太平洋戦争直前の話です。

庭の南側に、桜の枯木が息づいています。彼は
樹齢300年程に成ります。その頃の事を、良く知っているはず。後で、聞いてご覧なさい○

Madamは、(とても含蓄の在る話しが聴けると思うわ)と言う、含みを保つ微笑みを投げ掛ける。

Breakfastを済ませた後、ログハウスのカフェから出ると、庭の南西に、永年の風雪に耐えた威厳を漂わせて佇む、桜の枯木に近付いて行った。

小蝶は、枯木さくらの下から、語り掛ける。

蝶 (おはよう御座います)
桜 (おはよう。あまり見掛けない顔だが?)
蝶 (始めまして!。私は、小蝶と申します。
  側にいるのは、クモ吉とクモ姫です。)
桜 (所で、何か用かな?)
蝶 (先程、カフェのMadamから聞きました。
  今から90年程前、ここにあった分教場、
  女先生、生徒達の事は、覚えてますか?)

彼等は、(そんな下に居ないで、上まで登って来なさい)との、枯木さくらの声に促され、海原を遥か彼方まで見渡せる、枝まで上がって来た。

枯木さくらは、過ぎ去った遠い昔の事を、何とか思い出そうと、暫し考えている様だ。そして
、徐ろに、口を開いた。 

○女教師は、12人の生徒達に、私の緑陰で良く話をしていた。彼女が創作した物語だった。

時代は、富国強兵戦争賛美の風潮一色。教科書も、その傾向の内容ばかり。しかし、彼女は、その様な話を読んで欲しくなかったのだろう。

生徒達は、夫々の運命とも言える舟に乗って、戦争に向っている社会に漕ぎ出さなければならない。女先生には、そんな彼等が、不憫で、心配でならない。彼女は、胸に秘めたの思いを、彼等に、折に触れて、話していたのだと思う。

女先生の伝えたかった事、それは・・・・・。

⚪これから、どんなに辛い事に境遇しょうと、自分の心根を大切にしなさいね。その姿勢が、幸せをもたらすのよ!⚪

あれは、私が満開の花を戴いた季節であった。
その時、女先生は、何時もの様に、私の緑陰で、生徒達に話をしょうとしていた。

その時、生徒の一人が、私の樹上を指差し、(あんな所に、蜘蛛の巣が!。そこに、蝶が掴まつている。かわいそう!)と、叫んだ。

私は、その声に促され、自分の小枝の一つに張られている蜘蛛の巣に目をやった。確かに、今朝方張られたであろう蜘蛛の巣で、一羽の蝶がもがき苦しんでいる。少し離れた所から、一匹の蜘蛛が、様子を伺っている。

私は、思わず蜘蛛に声を掛け、会話を始めた。

桜 (蝶が、もがき苦しんでいる。かわいそう
  じゃないか!。直ぐ、放して上げなさい)
蜘 (出来ませんよ。これは、私のBreakfast!)
桜 (確かに、お前の立場も理解できる。しかし
  、ここは、少し深く広く考えてみないか?
  蝶の命と、そなたの食糧と、何方が大事か)
蜘 (それは、Breakfastが大事!)
桜 (蝶の命とて、そなたの精神の大事な食糧!
  そなたには、この事を、深く考えて欲しい)

蜘蛛は、暫く考えていたが、少しづつ蝶に近づいて行く。そして、彼女を捉えていた周りの糸を静かに切り始める。直に、蝶は開放された。

蝶 (蜘蛛さん!。有難うございます)
蜘 (お礼には及びません。私こそありがとう。
  何だか、とても、気持が軽くなりました)

この光景を息を殺して見ていた、生徒達から、一勢に、(良かった!)と、歓声が沸き起こった。

それから数日後、私の葉隠れに蜘蛛の亡骸が。

       ・・・・・・・・・○

枯木さくらの話に、耳を傾けていた、小蝶と、クモ吉、クモ姫は、互いに確認し合っている。
(今の私達の関係は、精神の結び付きなのね)と。

小蝶達は、枯木さくらに、(大変心温まるお話を有難うございました)と、感謝の言葉を述べた。
そして、彼のもとを離れた。それから、下に降りて、浜辺を歩き始める。干潮時に、幾つかの島を繋ぐように姿を現す、オレンジロードだ。

クモ吉とクモ姫は、互いの手(脚?)を取り合い
、静静と歩き始めた。その上空を、付かず離れず、小蝶が舞いながらついて行く。太陽の光が
、キラキラと輝きながら、照らしている。まるで、ウエディングパーティのライスシャワー。

小蝶は、空を舞いながら、叫んでいる。

○幸せに成るんだよ〜○

その時、辺りに、歌声が響き渡った。鯛、ヒラメ、伊勢海老、アコヤ貝、サンゴなどの海の生命達が、声を合わせ、歌い出したのだ。

歌は、作詞作曲者不詳の、(今を生きる)。

伴奏は、寄せては返す、波の音。

それは、ピアノ、チエロ、フルート、クラリネット、ヴァイオリンに、勝るとも劣らぬ素晴らしい音色。

それに、海の底から聞こえてくる、テノール.、ソプラノ、アルト、バリトン、バスの合唱。

正に、ここに、今が在る!。
そして、(今に生きよ)と、呼掛けている。




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