Nicotto Town


モリバランノスケ


ウサコの夢#1

今、我がFamilyは揃って、Lunchを嬉しんでいる最中。お蝶は、心も体も徐々に、回復して来た様だ。今日も、彼女の表情と仕草から、体調の良さが伺える。それも手伝って、皆の気持ちは同じ方向に。ウサコから、夢の話を聞くことだ。

彼女は、心の奥から言葉を選び、話し始めた。

○私は、シドニーの植物公園に生きる、樹齢千年を超える、ユーカリの枯木なの。周囲からは、世界の真理を知っているかの様な、堂々とした威厳のある姿のようだと、評されていた。

その植物公園の中あるカフエの中庭。いくつかのテーブルと椅子が置かれている。その一つに、一組の老夫婦の姿が。先程、ユックリと足を進める夫に妻が寄り添うようにしてここまで歩いてきた。夫は、長い顎髭を蓄え、顔色は優れず痩せている。妻は夫の被っていた山高帽子をそっと取った。陽の光が反射し輝いていた。

テーブルには、遅れてきた孫娘とボーイブレンドも加わり、何やら楽しげに談笑している。注文したコーヒーとケーキが運ばれてきた。老人は、器を口に近づけ、その味を懐かしむように飲む。この街で長年暮らしてきた彼は、ここを我が庭の様に親しんできた。決まって店に立ち寄っては、このテーブルに座ったものである。

私は、この老人が、癌により余命幾許もなく、あと数が月で命尽きるであろう事を知っている。

一方で、祖母と孫娘は、楽しそうに話をしている。どうやら、先程、彼からプロポーズされ、祝福を受けている様子である。

老人は、その話の輪には加わらず、じっと瞑想しているように見える。実際、彼は、自分の人生について、思いを巡らせ始めていた。

⚪あたりには、深い霧に包まれた湿原が広がっている。空には厚い雲が垂れ込め、今にも雨が降ってくるかの様だ。目を凝らすと、霧の中に鈍く光るものがある。蜘蛛の糸である。荒涼とした空間に浮かぶ網目模様は、自分が辿ってきた人生行路が、時系列に脈絡をもって形を成しているようである。良く見ると、何箇所か途切れた所がある。人生の終末が迫ってきていることから来る拭えども尽きぬ寂しさは、ここに原因が在りそうだ。

だとするならば、この網目模様の途切れた箇所を編み直し修復する事が必要なのだろう。けれども、今の自分には、それだけの、体力と時間は残されているのだろうか。⚪

次第に、その想いは、過去を彷徨い歩く老人の意識を、今へ世界(時間)へと誘い始める。

私は、老人の目が、少しづつ開くのを見ている。他の三人は、それを待っていたかの様にそれでは行こうかと、互いの顔を見交わす。

老人は、見納めになるであろう、私の姿を畏敬の気持を込めて眺め直しているようだ。私は、彼が、僅かだが、頭を垂れたように思われた。

妻は夫に山高帽子を被せる。そして、先程と、同じような、寄りそって静かに歩き始める。両隣を、孫娘と彼が、支える様に付いて行く。

老人の体力は衰えてきており、車椅子を使っての移動が適切かもしれない。けれども、自らの意思で歩こうとしている。この人なら、目前に迫りくる死に、真正面から対峙し、乗り越えるであろう。私は、老人にエールを送りたいと考えた。小枝の先々にまで隙間なく付いている葉の一枚一枚にまで、樹液を送り込み、全身の力を振り絞って老人に向かって、英気を放った。

彼等の姿は、徐々に小さくなって行き、やがて私の視界から、消えて行った。○

ウサコは、ここまで話すと、自分の心(宇宙)の中を見つめるかのように、黙り込んでいる。




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