Nicotto Town


五飯田八宝菜の語学学習日記


1820番:お父さんのおかげでぼくが生まれてきた

お父さんのおかげで…ぼくが生まれてきた.

ありがとう.

 

生前、父が軍隊時代の話をする度、「ぼくはお父さんの幸運の

おかげで、この世に生まれてこられたよ、ありがとう、と言っ

ていました.

 

そんなある日、「ありがとう」と言ったら、広島の練兵場時代

の話をしてくれた.父が志願兵として入隊したとき、まず最初

に送られたのが、広島の練兵場でした.話は朝礼をしていたと

きのこと.

 昭和18年当時はすでに敵機の襲来も多く、特に広島のよう

に軍事施設や基地のある場所には、敵機が襲来した.こういう

敵機は返してはならない.報告されるからだ.迎え撃つ局地

戦闘機が向かう.腕のいい戦闘員なので、たしかに敵機はしと

めるのだが、このあと、恐ろしいことが起こった.

 

 教練生が整列していた隊列に撃ち落された敵機の尾翼がほぼ

水平に飛んできて、隊列横一列に3名の腹を切り倒した.それ

は父のふたり手前で止まったという.気の毒にも3名は即死だ

ったそうだ.手前ふたりは顔面蒼白.朝礼が中止となったのか

どうかは聞かなかったが、おそらく中止になったことだろう.

 

ショックは大きく、その後、軍を逃げ出す人も出たという.

どう逃げ出したか.休みの日のことだった.(休みもあった

らしい)映画を見ようというので、仲間と神戸まで出かけた.

当時「新開地」というところに映画館があったという.

 

そこで1日楽しんで、さあ帰ろうというときに帰ってこない.

「逃げた」のである.

 

まあ、軍は警察でもないし、脱走者は犯罪を犯したわけでもな

いから、実家まで追及には来なかっただろうが、赤紙はそのう

ちやってくるだろう.

 

逃げなくても、夜中に泣き出すやつもいたらしい.だってまだ

15歳の少年だもの.尾翼が飛んできたそばにいたやつなんか

は、そりゃ泣きたくもなるだろう.純朴な田舎の少年だものね.

 

 




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