Nicotto Town


モリバランノスケ


憔悴

熱弁を振るう老クスノキは、少し疲れたのかも知れない。真青に透き通った宇宙を見上げるかのように、空に向かって、大きく深呼吸した。
その時、一陣の風が、彼の頬を撫ぜる。新芽達も、気持ち良さそうに、身を風に預けている。

その間に、満を持していたかのように、聴いていた皆が、次々と質問を投げ掛けた。中でも、お蝶は、真に迫った問い掛けをする。それは、その逃避行が、彼女が経験してきた生き様に似ていたからかも知れない。

お蝶 (その少年は、心身ともに、疲労困憊して
   いたことでしょう。回復の経過を聞きた
   いです。)
老楠 (身体は勿論だが、心のケア−には、時間
   を要した。それは、この森に居るみんな
   が、愛を持って彼を包んだから出来た)

老クスノキは、再び、喋り始めた。

森の総ての生命が、親身になって、彼の世話をかって出たのだ。中でも、狼の力は大きい。今では、ニホンオオカミは絶滅してしまったが、その頃は、生存していた。この森にはタロー、ジローという名の、二頭の兄弟が住んでいた。

彼等の奮闘振りは、今でも、ハッキリと目に焼き付いている。例えば、報奨目的で少年の居場所を発見しょうと、山狩りを繰り返す輩を追い払った事は、枚挙に暇がない。食料、水など、タロー、ジローは、何くれとなく面倒をみた。

夜は、彼が寂しかろうと、ピッタリと寄り添うように過ごしていた。森の住人である、植物、小動物、昆虫、蛇や蜥蜴の爬虫類・・生命は、
少年の滋養に良いと判断したら、狼兄弟に知らせ、彼に、飲ませ、食べさせ、塗ってあげた。




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