Nicotto Town



満月の夜に【1】火吹きリンゴと月齢の杖

「ヘモグロ便で~す!マリア・アレックスさんにお届け物で~す!」

ヘモグロ便の宅配員「チシオ・アカイ」が、メンドーサ隊事務所の玄関に大きな木箱を2つ置いた。
「私宛ですかぁ?あら、ユミコさんからですぅ~。
えっと…なになに?『武器、在中。火気厳禁。取扱注意。』…」
マリアは、木箱に貼られているラベルを読み上げる。
「おおっ!中身は ロキさんに取り上げられて、お屋敷に置いてきてしまった私の武器ですかぁ~!
ココアさんが 知らせてくれたんでしょうかぁ?ユミコさんは 本当にマメな人ですねぇ~。
もうひとつの箱は…火吹きリンゴですぅ~」
「その火吹きリンゴは、お詫びにってユミコさんが…」
火吹きリンゴが入った大きな木箱の後ろから、シュガーピンクの髪色をした女の子が ひょこっと顔を覗かせた。
「あの…、ヘモグロ便のお姉さん。メンドーサ隊の所まで 連れてきてくれて ありがとうございました…」
シュガーピンク髪の女の子が、お辞儀をしながらお礼を言う。
「この子、道に迷ってたみたいだったから。たまたま 私の届け先と彼女の行き先が一緒だったの。
あ、ここにサイン お願いします。はい、どうも。ありがとうございました~!じゃ、私はこれで…」
チシオは、メンドーサ隊事務所を後にした。

「マリアも、ロキに狙われたの?」
「はい、狙われたというか さらわれたというか…そういうあなたは どちら様ですかぁ?」
「私、ミカル・ヒダカ。あなたに折り入って、頼みが…」
「何だ何だ?誰が来たんだ?」「あっ、ヘモグロ便が届いてるニャ!」「ひっ…!? ロ、ロキ!?」
様子を見に玄関へ来た虎人族のラシードとバトラーの声を聞いて、ミカルは すくみあがった!
「誰だい、この子?」「誰だか知らニャいけど、オレたちは ロキじゃニャいよ~」
「ご、ごめんなさい…。あなたたちの声が あまりにロキに似ていたから、つい…」
「そういえば、ラシードさんとバトラーさんの声って、ロキさんにとてもよく似てますねぇ~。
夜、台所でロキさんの声だけ聴いた時、
最初は「ラシードさんかな?バトラーさんかな?」って思ってしまったくらいですぅ~。
だから、ミカルさんが間違えちゃったのも 無理ないですねぇ~」
『だから~、ロキって誰だよ~!?』同じことを言ってハモるラシードとバトラー。
「ラシードさん、バトラーさん。木箱を食堂まで運んでもらえますかぁ?」
「いいよ~!お安い御用だニャ!」「ガオガオ~」
「ミカルさん、話は 荷ほどきしてからでよろしいですかぁ?」「う、うん…」

「この箱、重たいニャ~。一体、何が入ってるんだ?」
「あっ!ラシードさん!その箱は ゆっくり降ろして下さい!暴発したら危ないですから…」
「ガオガオ~、こっちの箱からは 何かいい匂いがするぞ~。
中身は火吹きリンゴか!ひとつ もらってもいいか?」
「え?バトラー、火吹きリンゴをそのまま食べるの?」
「バトラーさんは~、チャレンジャーだね~。
火吹きリンゴは~、生のまま食べると~、火を吹くほど辛いのに~」
小柄なエルフの少女「チュニス」が、ミカルとバトラーの話に入ってきた。
「ガオ~♪だから、いいんじゃないか!」「バトラー兄さんは、本当に物好きな虎人族だニャ~」
「ちなみに、ドラゴン族や竜人族は、火吹きリンゴを生のまま丸かじりするのが 「普通」だぞ?
…って、マリア。何やってるんだ?」
マリアの武器が詰まった木箱が、すでに空になっていたので、バトラーは面食らった。
「スカートの中に武器を格納してましたぁ~。
かつて、私が所属していた「白衣の戦乙女隊」では、これが「普通」でしたぁ~」
みんなが火吹きリンゴ談義をしている間に、マリアは 目にもとまらぬ早業で武器をスカートの中に収めていた。
(「普通」って、何だろう…?)ミカルは、心の中でぽつりとつぶやいた。

「火吹きリンゴがいっぱい届いたことだし~、火吹きリンゴでアップルパイを作りませんか~?」
「おおっ!今から作れば、今日のおやつに間に合いそうですぅ~!」
チュニスの提案にマリアが いの一番に乗ってきた。
「マリア、私も お手伝いしていい?火吹きリンゴのアップルパイは、私の十八番(おはこ)なの…」
「はいっ!いいですよぉ~!一緒に作りましょう、ミカルさん♪」マリアは嬉しそうに答えた。
マリアたち三人は、メンドーサ隊の台所で、火吹きリンゴのアップルパイを作りながら、話し始める。
「火吹きリンゴは、生で食べると火を吹くほど辛いけど、熱を加えると とっても甘くなるんですよねぇ~」
「火吹きリンゴの皮を煮出して~、アップルティーも作りましょう~」
程なくして、火吹きリンゴのアップルパイを作り終え、オーブンで焼きあがるのを待つばかりとなった。
「いっぱい作ったね~。それにしても~、ミカルちゃん~、ホントに手際よかったね~」
「さすが十八番だって言うだけありますぅ~」
「あの、チュニスさん。さっきから気になってたけど、その杖…」
「ああ、この子は~、私の相棒の杖で~、「月齢の杖」っていうの~。
今夜は~、この子(月齢の杖)が示す通り~、満月だね~。
今日は~、雲一つない満天の星空になりそうだね~。この子を~、月光浴させるには~、うってつけだね~」
チュニスは、月齢の杖の先端で「満月」を表示している大きな宝珠を撫でている。
「満月…」ミカルは、表情を曇らせた。
 オーブンが「チーン!」と音を立て、火吹きリンゴのアップルパイが焼き上がったのを知らせた。

今日のおやつは、火吹きリンゴのアップルパイと火吹きリンゴのアップルティー。
お茶の時間の中、ミカルは みんなに自己紹介をする。
「私はミカル・ヒダカ。マカマカイから来たの…」
「マカマカイから来たってことは、キミは魔族なのかい?」ブラン・ヨークが問う。
「魔族というよりは 人間に近い、かな? お父さんは天使で、お母さんはサキュバスだから…」
「たしかに、天使と悪魔の間に生まれたのなら 限りなく人間に近いわね」と、ノエル。
「お父さんもお母さんも、私が小さい頃に死んじゃったの…。
お父さんにもお母さんにも、身内と呼べる人が誰もいなくて…。
あ、でも!近所の人達は 優しくて 私に良くしてくれたよ!友達もいたから、淋しくなかったよ!」
「だけど、ミカルの生い立ちが生い立ちだから、
差別されたり、いじめられたり、陰口叩かれたり…いろいろと辛い目に遭ってきたんじゃない?
マカマカイは、純粋種とか血統とか そういう事にこだわる連中が多いから…」
ブランの姉「ノエル・ヨーク」は、ミカルを 昔の自分と重ねていた。
「少しでも、何か別の種族の血が混じるとねぇ…途端に爪弾きよ。
ヨーク本家当主のノワールおじいさまは、ホントに頭硬いんだから!」
猫耳セイレーンの「ビアン・ヨーク」が、ため息混じりにぼやく。
「ビアンが何者であろうと、僕の愛するビアンであることに変わりはないよ」
慰めの言葉をかけながら、ビアンを後ろから優しく抱きしめる男装の麗人「ロゼ・ベルサイユ」。
「それで、どうして メンドーサ隊に来たんだ?ミカル・ヒダカ」と、トリオン隊長。
「今晩、一晩だけでいい。ここに泊めてほしいの…」
「一晩だけでいいんですかぁ?」と、マリア。
「今夜だけは、マカマカイに居たくないの…」

チュニスの予想通り、雲一つない満天の星空。そして、白銀の満月。
マリアは、ミカルに呼び出され、ウェルカム平原にいた…。

ーつづくー




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