Nicotto Town



台所夜話【2】ロキ・ミザール・アルコル

「マリア、そんなにココアに会いたいか?」どこからともなく男の声がする。

「はいっ!会いたいですぅ~!」マリアは男の声に返答した。
「マリア!そんな声だけの怪しい奴の誘いに乗っちゃダメだろ!?」
マリアが全く警戒しないので、シンジローは肝を冷やし、すかさずツッコんだ。
「その声は ロキ!? ま~た、あたしの後をつけてきたの!? うわ~、マジウゼエ~」
ピンキーは、ロキの声を聞くなり、顔をしかめて盛大に毒づいた。
ロキは、マリアの前に姿を現した。
「こんばんは。はじめまして、マリア・アレックスさん。
私は、マカマカイの貴公子『ロキ・ミザール・アルコル』。以後、お見知りおきを…」
ロキはピンキーの毒舌をよそに、マリアの前で片膝をつき、マリアの手を取り、手の甲にそっと口づけをした。
「は、はい…よろしくお願いしますぅ~、ロキさん」
マリアは、顔を真っ赤にして、ドギマギしている。
「マリア、キミは本当にココアにそっくりだね…。会いたかった…いや、私が会わせてあげるよ」
そう言いながら、ロキは瞳を怪しく光らせる。マリアは、ロキの瞳術にかかり眠ってしまった!
「マリアは私が預かる!安心しろ、ココアに会わせたらすぐにでも帰してやるさ。フフフ…」
ロキは眠っているマリアをお姫様抱っこで抱き上げた状態のまま、捨て台詞を残してその場から消え去った!
「あ!待ってよ~!」ピンキーもロキの後を追って、一瞬にして姿を消した。
メンドーサ隊事務所の台所に一人取り残されるシンジローであった。

「マリア、今夜は キミが主役だ…」
「ロキさん!?」
気がつくと、マリアは儀式用の衣装を着ていて、魔法陣の中央にあるソファに身を横たえていた。
「さぁ、身も心も 私に捧げろ…!」
「それって、私にロキさんの生贄になれって言ってるんじゃ…」
「今頃気づいても 遅いぞ!もう、後戻りは 出来ないんだ…!」
ロキは、苦悶と悦楽が綯交ぜになった複雑な表情を浮かべながら、魔法陣の中央へゆっくりと歩み寄る。
ロキが少女のような端正な顔立ちをしているのもあってか、その佇まいが悩ましくも儚げに見えた。
「いやーっ!私なんか食べたって美味しくないですぅ~!」
と、言いながら、マリアは目を覚まし、飛び起きた。
マリアは、辺りを見回す。ここは客室で、ベッドに寝かされていたのだ。
「夢か…ゆ、夢でよかったですぅ~。心臓がまだドキドキ言ってますぅ~」
「どんな夢を見てたんだい?例えば、私の生贄になる夢とか?」
いつの間にか、ロキがマリアのすぐ近くにいた。
「ロキさん!? どうして、それを…!?」
「あのまま、キミの夢の中で想いを遂げてもよかったが、途中でキミが目を覚ましてしまったからね…。
だから、今度は現実の世界で見させてあげるよ。私が直接この手でキミに とても甘い夢を…」
ロキはマリアをまっすぐ見つめながら、甘く囁きながら、頬に触れようとした。
「あ、あの!ここは、どこですかぁ?」
ロキの口説きを避けるようにマリアは質問を投げかける。
「ここは、マカマカイにある私の屋敷だ」

マカマカイ。
魔族、悪魔、魔獣、獣人族など、古今東西の人ならざる者が混在している 摩訶不思議な世界。
名前の由来は「摩訶不思議な魔界」の略称という説が有力である。

一方その頃、メンドーサ隊事務所では…。
「シンジロー・シックザール!貴様がついていながら、みすみすマリアをさらわれるなどと…!」
「…本当に済まない。返す言葉もねぇ…」
「トリオン、あんまりシンジローを責めないでやってくれ。
それで、そのマリアをさらった奴は 確かに『ロキ・ミザール・アルコル』と名乗ったんだな!?」
「知っているのか!? ブラン・ヨーク!!」
『知っているのか、雷電!?』みたいな男塾っぽい返しをするトリオン隊長。

一方その頃、マカマカイのロキの屋敷では…。
「さっき見た夢以外にも、キミの夢を見させてもらったけど、
三度笠の渡世人娘「木枯らしまりあ」とは、なかなか渋いね」
ロキは、夢の内容を思い出してクスッと笑う。
「他人の夢を覗き見するなんて、ロキさん 何か やらしいですぅ~」
まりあは、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯いた。
「夢の中に入るのは、夢魔の専売特許だけどね。
サキュバスの「マリー・オハラ」がしていることをちょっと真似てみただけさ。
そしたら、キミの夢に「ブラン・ヨーク」が出てくるんだから驚いたね」
「え?ブランさんをご存知なんですかぁ?」
「ブランは、私と同じくマカマカイの名門の出でナンパ師だったからな。
どっちがより多くの女をモノにできるかよく張り合ったものさ。
そのブランにナンパをやめさせたキミに興味があってね…」
ロキの瞳が妖しく光ると、マリアは身動きが取れなくなり、ロキに強制的に従わされそうになった。
「いやっ!やめて…!それじゃ、あの時のブランさんと同じですぅ!」
「笛の音で虜にして、いくら 心を奪っても、本当の愛は得られない…だろ?」
「!!、…どうして、私が言った言葉を…?」
「フッ、ブランが語り草にするわけだ。結局のところ、人の情にほだされたに過ぎなかったか。
所詮、ブランは、半分 人間の血が入った中途半端なセイレーンハーフ。
純粋で高貴な魔族の私には足元にも及ばん二流のナンパ師だったというわけだ。
キミは知らないだろうが、ブランはキミに相当惚れ込んでいるようだね。
抜け駆けしてはトリオン隊長に怒られてさ。
そんなブランから私がマリアを奪ったら、ブランはどんな顔をするかな?試してみようか?」
ロキはマリアを強引に抱き寄せた。
「ふざけないで!あなたみたいな人は、この武器で穴だらけにして…って、あれ?あれれ?」
マリアはエプロンドレスの下から武器を取り出そうしたが、肝心の武器がひとつもない!
「ない!ない!ない ない ない!
ガトリング砲もバズーカ砲もミサイルランチャーもドリーミンキュアーロッドも手りゅう弾も投げナイフも!」
「おやおや、カワイイ顔してキミも結構アブナイ娘だねぇ…。
持っている武器は、寝ている間に全部取り上げさせてもらったよ。
スカートの下にそんなにたくさんの武器を隠し持っているとはね…恐れ入ったよ。
二等兵とはいえ、さすがは元・白衣の戦乙女隊。
セルティック王国の武装看護兵部隊「白衣の戦乙女隊」の名前は、マカマカイの間じゃ有名だからね。
戦乙女もこれだけ武器を持っていれば、エインフェリアの兵士など必要ないだろうよ」
「…それで、ココアさんには いつ 会わせて頂けるんですかぁ?」
「フッ、フフフ…フフフフフ…アハハハハハ!」
「何がおかしいんですかぁ!?」
「おめでたい女だ!まだその約束を信じているのか!?」
「えっ!? それじゃ、ココアさんに会わせるっていうのは、嘘だったんですかぁ!?」
「そうだよぉ!やっと気づいたか!本当に…可愛いな、マリア…っ!」
ロキの声色が急に色っぽくなり、真顔でマリアに迫ってきた。
その時だ!何者かの攻撃をまともに受けてロキが大きく吹き飛んだ!
「いい加減にしろ!この色ボケトリックスター!」
ロキをぶっ飛ばしたのは、マリアと瓜二つの顔をした黒髪の女の子だった!
「あ、あなたは…ココア、さん?」
「あなたがマリア・アレックスね。私はココア・ダークスター。話は後!
さっさとここから逃げるわよ!」
ココアは、マリアの手を引いて走り出していた…!

マリアとココアは、ロキの屋敷から何とか脱出できた。そう思ったのもつかの間…。

ーつづくー




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