Nicotto Town


モリバランノスケ


遺言

今日、東京以北は、雪に見舞われた。ここ南房総は、朝からシトシトと雨が降り続いている。昨晩は、充分な睡眠が取れ、ぐつすりと眠れたのであろう。お蝶の顔色は、一昨日、昨日と較べると良くなり羽の傷みも多少和らいだ様だ。

私達は、雨に煙る庭を眺めながら、朝食を楽しんでいる。いつものように、私達の夫婦、愛猫チャム。それに今朝は、お蝶、ピョン太も一緒である。ピョン太は、お蝶の事が、気掛かりで昨晩も我が家に泊まった。チャム、ピョン太の二人は、時々食事の手を休め、お蝶が蜂蜜をナメる様子を愛のこもった眼差しで眺めている。

全員が一通り朝食を終えたのを見計らい、私がお蝶と他の皆に語り掛ける。

私 <お蝶は、話したい事がある、と、言って
  いたけれど、今これからはどうですか?>

瞳を閉じて、想いを巡らせていたお蝶は、沈黙の底の中から言葉を絞り出すょうに語り出す。

(話す機会を頂て、嬉しいです。自分には分かっています。北国迄旅をする体力は、今の私には残っておりません。だから、私の話を、遺言として、聴いてもらいたいのです。

何日か前に、ある夢を観ました。それは、私が命として、この世に産み出される、直前だったのだろう、と、想います。その時、私は、とある決断をしなければなりませんでした。

それは、 ご夫妻のように人間になるか
又は、 チャムやピョン太の様に動物になるか
又は、 羽休めをする楠木の様に植物になるか
あるいは、魚類、爬虫類、その他・・になるか

私は、一瞬悩みましたが、昆虫の蝶になることを選びました。こうして、この姿で、この世に出てきたのです。

でも、後悔は有りません。このように、蝶として一生を終えょうとしていることは、私を、満ち足りた気持ちに導くのです。それは、こうして、皆さんのような、心の通じ合う友達が出来たからだ、と、確信しています。私は、この幸福感を何時までも忘れないでしょう。生きる事は、なんて素晴らしい!。私は、幸せ者です)

お蝶は、一旦押黙る。

私達は、身じろぎもせずに、彼女の話を聴いていた。深い底しれぬ、静寂と沈黙が、辺りを包んでいる。





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