仮想劇場『Jiro's恋歌』
- カテゴリ:自作小説
- 2024/02/01 15:33:18
その部屋の押し入れが僕のお気に入りの居場所で
誰に媚びることなくいつも当たり前の顔で居座り侍り
ときにはブツブツと想い患いのような詩を宣い
ときにはワオワオと流行らない歌を掻き鳴らし過ごした
キミに呼ばれれば尻尾を立ててたちまちに返事をする
キミが許せば押し入れの戸を開け放ち、そこでとりとめのない談笑をする
それが当たり前の事とは言わない
これはとてもとても贅沢な日常だ
たまに気脈を重ねてはお互いの憂いを一つずつ持ち寄り
そして何事もなかったような顔で手を握り交わし過ごした日々
ひどく甘い時間、ともに懸命な時間、のぞんで退屈な時間、
全部が当たり前で贅沢な日常
その部屋の押し入れに僕はどれほど救われたろうか
言葉に置き換えることが困難なほど僕はすでに
君の懐深くにこの四つ足の全てをすっぽりと納めてしまった