Nicotto Town


モリバランノスケ


老エゾマツの話・・その2

無音の世界、張り詰めた静寂のなか、私は、(貴方から・・・その続きを、是非にもお聴きたい)と、語り掛けた。沈黙していた、老エゾマツは、少し考え込むような仕草を繰り返したあと、絞り出すよに、語り出した。

先ず、樹液が、小枝の末端に迄、行き渡るように、大きく深呼吸をして、老体に英気を漲らせながら、言葉を発した。

<あれは、私が、若木の頃か、働き盛りの頃か、何百年前の頃なのか、はっきりとは、覚えていない。・・・・・>

<この辺りには、小さな沼があった。私は、その縁にヒッソリと佇む、名もない雑木の一つだった。沼は、廻りの沢の湧き水を集め澄み切っている。覆い被さるように繁る樹木の間から木漏れ日が水面に届き幾つかの色に姿を変えながら屈折し水底に至る。水辺には可憐な白い花が群生している。蘭の花である。静かだ。時々、風に吹かれた木々達が織り成す、互いを擦付ける音が、あたりの空気を裂くように森の隅々に迄木霊する。神々しさが、其処に満ちてくる。
この沼は、巨大な岩の窪みに清水が溜まって出来た。その南側は、岩場となっており、そこから温泉が湧き出ている。木漏れ陽をを吸収して廻りの空間を、淡い紅色に変えながら、大気の中に吸い込まれていく。・・・・・・・・・>




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