Nicotto Town


モリバランノスケ


クラリネット

私は、クラリネットを正式に習ったことはない。が、中学3年次、ふとしたことから、練習用のを買い求めて吹き始め、高校時代は、勉強の合間に、気分転換のつもりで吹いていた。しかし、クラブ活動の一環とした、経験はない。

しばらくは、そのことを忘れていたが、今こうして、森の中で生活するようになり、思い出したように吹いている。すこぶる気に入っているのは、ログハウスの中だから、心地よく響き渡る、その音色である。今は、低音用のを一台、中音(普通)用のを二台、持っている。木の家の中で吹く低音の体内(腹)への響きは上々。

森の樹木達は、私のクラリネットの演奏を、心待ちにしている。私も、彼等に囲まれ、演奏するのか大好きだ。特に、老エゾマツは、その音色を、まんじりともせずに、聴き入っていて、私には、彼の気持ちが、痛いほど良く分かる。

老エゾマツは、思い出を話してくれた。
<そう、あの時も春だった。満開の桜の花の下に、モ−ツアルトのクラリネット協奏曲が流れる。音色が、静まり返った森の空気を震わせる。花も木も草も虫も鳥も、その響きに魅せられている。華やいだ雰囲気の中で、若い男女が手を取り合って、踊っていたヨ。>

老エゾマツは、思い出を絞り出す様に、話し続けた。<時折吹いてくる微風に、花弁が舞って女性の髪に付いた。その隣に、美しい蝶がヒラリと舞い降りる。まるで、髪飾りの様だ。演奏は、万物(全ての命)に、春に生きる喜びを蘇生しながら、最終章へと、移って行ったんだ>。彼は、ここまで話すと、又しばし押黙る。




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