Nicotto Town


どんぐりやボタンとか


キラとニクラの大冒険 第二章(2)

翌朝、母親が病院にやってきた。

お父様はお仕事で来れないの。。
ごめんなさい。
でも、私は今日はずっとあなたのそばにいられるわ。
何か欲しいものはある?キラ?

壁を向いてベッドに横になっているキラの背中に母親は優しく話しかけた。

キラは振り向いて母親の顔を見た。
キラの目には涙が浮かんでいる。

お母様、わたし、、、怖かった。。

母親はキラが泣いてるのを見て、とても優しく微笑んでキラを抱きしめた。

ああ、なんてかわいそうなの!
キラ!ずいぶん怖い目に合ったのね!!

怖かったわ。。
あいつはどうなるの?
またわたしの前に現れるの?

衰弱して頬がこけ、目の下にクマを作っているキラが泣きながらそう言うと、本当に恐怖に打ちひしがれているように見えた。

いいえ!
あいつはもう牢屋の中よ。
安心なさい、キラ。
すぐに裁判が行われて、あいつはこの世からいなくなるわ。
二度とあなたの前に現れることは無いわ。

キラはそれを聞いて、まくらに顔をつけて声を出して泣いた。
母親はキラの頭を優しく抱きしめながら、もう大丈夫よ、なんの心配もいらないのよ。と言った。

母親は本当はニクラのことなどどうでも良かった。
ニクラはもうすでに牢屋に入ってしまっているし、もう二度と出てこれないようにするか、極刑にするか、どちらかにしてちょうだい。ということは、もうすでに昨夜父親に言ってあった。
いずれにしても、もうニクラは二度と牢屋から出ることがないことは決定していた。
キラは本当に恐怖に震えて自分の腕の中で泣いているし、自分が本当に悲劇の娘を持つ美しい母親になれたことにとても満足していた。

これでもう、美しい自分の家庭を取り戻すことが出来たのだ。


すべてはニクラの状況を知るための演技だった。
キラの演技は恐ろしいほどに完璧だった。
キラはニクラを助け出すためならどんな手を使っても構わないと決意していた。
その決意がキラの演技を完璧なものにしていた。
キラは、自分の母親が一言言うだけでニクラの処分が決定されることをわかっていた。
しかし、最後にまくらに顔をつけて泣いたのは、本当に泣いていた。
ニクラが極刑になるかもしれない。それを聞いて我慢できなかったのだ。


それから2日後、町の簡素な裁判所でニクラの裁判がおこなわれた。

キラは、とても怖いけど、あいつが裁かれるところをどうしても見たいの。と母親に言って、病院から一日だけの外出許可をもらって裁判を傍聴することになった。
父親はそれを止めたけど、母親は、ぜひキラを連れて行くべきだ。と主張した。
彼女は、ニクラを憎むキラをたまらなく愛おしく感じたのだ。

キラと両親は傍聴席に座り、裁判が始まるのを待った。
裁判長席に座っているのは警察署長だった。
この国の小さな町ではよく警官関係者が裁判長の代行をすることが多かった。
三権分立などという考え方は全然定着していない時代であった。
そのため、警察や政府高官に都合の良い不平等な裁判行われることもしばしばあった。
二人の警察官に連れられて、ニクラが法廷に入ってくる。
まだシュコピッポ大佐に拳銃で撃たれたふくらはぎが治っていないので、ニクラは右足をひきづっていた。
傍聴席に座っている町の大人の一人がニクラに罵声を浴びせた。

この悪魔のガキめ!

ニクラは腰に縄をつけられて、手首も縛られている。
顔は見違えるように痩けて、唇や目の上に切り傷があった。
一応の治療を受けたようで、頭と肩や腕に包帯が巻いてあった。
ニクラは力無くうつむいていた。
被告席にニクラが座らされると、裁判が始まった。
検察側に座るシュコピッポ大佐が事件の概要を裁判官と陪審員たちに向かって説明した。
ニクラがキラに暴行を加え、キラを身代金目的で誘拐した。という内容だった。

証拠として、ニクラが森に住む悪魔(はっぱっぷすのこと)と結託していたこと。
その悪魔はシュコピッポ大佐によって銃殺されたこと。というシュコピッポ大佐と自警団たちの証言。
また、ニクラがキラの両親に宛てて書いたとされる身代金要求の手紙が提出された。

そして、余罪として、キラへの殺人未遂、警察署長を殺害しようとして一方的に暴力をふるったための暴行罪、身代金を元手にしてテロを行おうとしていた国家反逆罪、そして、セイゲンさんの馬車を盗んだとして、窃盗罪も加えられた。

全てがでっち上げだった。

次にニクラの国選弁護人が、ニクラには精神に異常があり、判断能力が無いと主張したが、検察に、彼は事前に町の老人宅から馬車を盗むなど計画的な犯行を行っており充分な判断能力があった。と反論されると、それに対して何も反論は無いとして着席した。
判決は陪審員全員一致で無期懲役、しかし、「犯行以前の日頃の生活姿勢も非常に反社会的であり、少年ではあるが悪魔と魂の契約をしており、彼は人間であって人間ではない。彼は教育委員会長の娘を誘拐し、暴力を振るい、巨額な身代金を要求しようとしていた。人間社会を憎み、国家反覆を試みる可能性が極めて高く、この町の安全を脅かし、人々を危険に晒すことを望む生まれながらの悪魔である。」と裁判長が判断して、極刑に科せられた。
陪審員の判断が不十分である場合、裁判長はさらに重い判決を言い渡す権利があるのだ。

この国での陪審員制度は一応の民主主義を建前として見せるためのもので、実質は権力者の意図が判決に反映されることのほうが圧倒的に多かった。
多くの人たちが権力者の意図で、悪魔や魔女とされて、極刑に処されていた。
そして判決には、当然、ニクラに殴られた警察署長の憎しみも込められていた。
まるで裁判の前から刑が確定しているような判決であった。

ニクラの弁護人が「上告する意思は無い。」と発言して、裁判は終わった。
わずか10分の裁判だった。

ニクラが警官たちに連れられて退席させられるとき、キラはずっとニクラを見ていた。
キラの両親のまわりに座っていた町の大人たちは母親と父親に、おめでとう!これで安心ですな!!と、口々に声をかけた。
キラの両親はみんなに何度も頭を下げて、礼を言ったり握手をしたりしている。
ニクラは警察官に連れられてうつむいて法廷から出る直前に、一瞬だけキラを見た。
目が合ったそのとき、ニクラは誰も気づかないほどごくわずかにうなずいた。
それは裁判所に入って来たときのニクラの目とはまったく違う目だった。
キラと同じ決意の目をしていた。

キラはそれでニクラがくじけていないことを知った。

ニクラの刑は絞首刑で、翌週の火曜日に町の広場で執行されることに決まった。
裁判も刑の執行も異様なスピードで進められていた。

アバター
2023/11/24 12:38
せんちゃん、

おれも、最初はこんな展開とは予想しなかったです。。
でも、初めの方から、いつかはキラの親や二人の生まれ育った町とは対峙しなければならない時が来るとは思っていましたし、その時は、ファンタジーだけでは済まないだろうと思っていました。
キラとニクラにとっての生まれてからずっとの因縁なので。
彼らにとって、とても深く、複雑な思いのある町なんです。
キラもニクラも幸せとは言えない幼少期を過ごした町です。
でも、やっぱり自分たちの生まれ故郷だし、自分たちの家族がいる町です。
しかし、その生まれ故郷は二人の自由を許してくれませんでした。
彼らの冒険は、いわば、二人はその故郷から、親から、叔父から、逃げた形になったのです。
しかし、故郷とは縁が必ず繋がっているし、いつかは対峙しなければならないとおれは作者としてキラとニクラに対して思っていました。
この第二章がまさにそれですね。
アバター
2023/11/24 08:14
なんだかどんどんシリアスになっていくよねえ。
最初はこんな展開とは予想しなかったです。



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