Nicotto Town


どんぐりやボタンとか


キラとニクラの大冒険 第二章(1)

第2章

6人の男たちは町に向かって無言で馬を進めていた。

キラはニクラに何度か声をかけたけど、ニクラは気を失ってしまっていた。キラは男たちのスキを見ながら手首の縄を外そうといろんなふうに動かしたけど、縄はしっかりとキラの手首と足首に食い込み、全く外れなかった。

しばらく進むと、男たちは馬を止めて、休憩にした。
馬に水を与え、自警団員の若い男がみなの食事を作る。
ひげの軍人らしき男がキラとニクラの様子を見にきた。

おい、娘の縄を外して、腰縄にしろ。

男は警察署長に命令した。

シュコピッポ大佐、この小娘は逃げますよ!

警察署長が反論すると、シュコピッポ大佐と呼ばれる男は言った。
ひげの男はシュコピッポ大佐という名で、国の軍隊の中でもかなり高等な地位の軍人だった。

小僧がいる限り、この娘は逃げん。外せ。

シュコピッポ大佐の言うとおり、キラはもし縄を外されても、ニクラがけがで動けない限り、逃げるつもりは無かった。
警察署長はブツブツと文句を言いながら、キラの手首と足首の縄を外して腰ひもに替えた。
警察署長が腰ひもを大砲の土台にくくりつけようとしたとき、シュコピッポ大佐がキラにたずねた。

小便に行くか?

キラが首を降ると、署長が腰ひもを大砲の土台にくくりつけた。
それから、昼飯ができると、若い自警団員の男はキラの分も持ってきた。
しかし、キラは一切手をつけようとしなかった。
シュコピッポ大佐がキラに向かって、食え。と言った。

シュコピッポ大佐は、キラをできるだけ丁重に扱うように命令を受けていたのだ。だから、町へついた時、キラの手首に縄の跡がついていたり、キラが衰弱していて、問題になるのを避けたいのだ。

しかし、キラはシュコピッポ大佐を一瞥もせず、冷たい顔で前を向いたまま大佐の言葉を無視した。

シュコピッポ大佐はそれ以上何も言わず、食事を終えるとすぐに出発した。

ニクラは次の日の朝、気絶から目を覚ますと、警官署長の馬に縄で縛られたまま移されて、キラと離された。

ニクラは腕や肩を骨折しているようで、乱暴に馬に乗せられるとき、唸り声をあげた。
ニクラは目隠しをされて、食べ物も水も与えられなかったし、ケガの治療もされなかった。
ニクラは夜になると、木にくくりつけられて、交代でいつも誰かがニクラとキラを見張った。

キラは与えられる水も食べ物も一切口にしなかった。雨の降った日の夜、キラはみなが寝静まったあとに見張りの警官の目を盗んで、荷台の床のくぼみにたまった雨水を飲んだ。そして荷台の隅に落ちてくる木の実を食べて飢えを凌いだ。
キラが町で暮らしていたころ、雨水なんて飲もうと思わなかったけれど、ニクラとぱっぱっぷすとの冒険がキラを強くしていた。

3日が経ったころ、ニクラはケガのせいで高熱を出した。
それから、ニクラにも水と少しの食事が与えられるようになった。それでもまだニクラはとても衰弱していた。
ニクラが罪人のように扱われるのを見るたびに、キラの心の中に真っ赤な怒りがこみ上げて、どうしようもなく目から涙が落ちた。
しかし、キラは男たちに自分の涙を見せることが嫌ですぐに拭って、涙を我慢した。

2週間後、一団は町へ着いた。
キラは途中で何度も男たちからニクラを助け出して逃げようと考えた。でも、シュコピッポ大佐はいつも前を向いて馬に乗っているのに、少しのスキや油断も無く、キラは何も出来なかった。
町へ着くと、知らせを受けた町中の人たちが集まっていた。
その中にはもちろんキラの両親もいたし、国の政治家や町の権力者たちも全員集まっていた。
しかし、ニクラの叔父だけはいなかった。

到着してすぐにニクラは馬から乱暴に降ろされて、シュコピッポ大佐はぐったりとしているニクラの髪の毛をつかんで頭を上げ、顔を町のみんなにさらした。
町の人たちはみんな顔をしかめたり、眉をひそめてコソコソ話したりしながら、ニクラを見ていた。
そのあと、ニクラは町の警官たちに連れられて町の留置所に入れられた。

そして、シュコピッポ大佐はキラの両親にうやうやしくキラを渡すと、観衆たちから大歓声が起きた。
キラの母親は涙を流しながらキラに駆け寄って抱きしめた。

キラ、無事だったのね!!!

それから父親も目に涙を浮かべて、キラと母親のふたりを抱きしめた。
すると、観衆からは一躍大きな歓声があがった。
町の人たちの何人かは目に涙を浮かべたり、ハンカチで目を押さえていた。

誰一人、キラの無表情な冷め切った目に気づくものはいなかった。キラ自身も気づいていなかったが、キラはもうすでに町の人とは違う異質な雰囲気を放っていた。それは、キラとニクラがはじめてぱっぱっぷすやハナ婆に出会ったときに感じた異質な雰囲気と似たものだった。そして、キラの冷たい怒りの目の奥には、決意があった。それは、必ずニクラを救い出すという決意だった。


皆様のご協力のおかげと神の御加護です。
私たちの娘はこうして無事に戻ってきました。
私たちはまた愛情深い家庭を取り戻すことが出来たことをみなさんお一人お一人に感謝申し上げます。

キラの父親は、背筋を伸ばし涙を拭いて、シュコピッポ大佐たちや観衆に向けてそう演説した。
その横で母親はキラの頭にそっと片手を置いて、つつましくみんなに何度も頭を下げていた。
また観衆たちから大きな歓声が上がった。
それから、父親はシュコピッポ大佐や警察署長たち捜索隊の6人一人一人と握手をした。
捜索隊の男とたちには国から多額の報酬と、さらにキラの父親から莫大な金額のお礼が与えられる予定だった。
シュコピッポ大佐は、さらに上級の位に昇格することになっていた。

それから、キラは両親と共に町の病院へ連れていかれ、衰弱していたため、そのまま入院することになった。
キラの入院する部屋は1人部屋で、簡素だけどベッドや窓のカーテン、見舞客のための小さなテーブルと椅子も高級なものばかりだった。

母親はベッドに横になったキラに優しく言った。

これからはまた3人で仲良く暮らしましょうね、キラ。

キラは天井を見たまま、母親の顔を見なかった。

疲れているんだ。今日はもう寝かせよう。

と、父親が言った。

キラ、もうなんの心配もいらないわ。安心しておやすみ。

母親がそう言ってキラの髪の毛を撫でると、ふたりは病室を出て行った。

廊下で、両親が看護婦と話している声が聞こえる。

あの子は精神に異常が、、とか、くれぐれも内密に、、とかいう言葉がしばらく聞こえて、母親のよろしくお願いします。という声がして、ふたりは帰って行った。

病室に一人になったキラは天井を見たまま、ずっと考えていた。
ニクラをどうやって助け出すか。
ぱっぱっぷすはまだ生きているのか。
ポルコは大丈夫か。
キラはずっとそのことに思いを巡らせていた。




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