Nicotto Town


どんぐりやボタンとか


キラとニクラの大冒険 (48)

そのとき、ニクラに引き裂かれた首が動いて、砂浜に深く突き刺さっているモリを強引に引き抜くと、海へ戻っていった。
ニクラとぱっぱっぷすが海を見ると、7つの頭は怒り狂ってぎゅるぎゅると激しく動き、引き裂かれた頭やぱっぱっぷすにモリで刺されて傷を負った頭を他の頭たちが食っていた。
頭たちは絡まり合いながら、ふたつの負傷した頭をめちゃくちゃに食い終わると、こちらを向いた。
よく見ると、真ん中の頭だけ小さく、人間のような顔をしている。
ふたつの目は白目がやけに白く黒目が強く際立っており、大きく裂けて笑っているようなその口の中には牙が一本も無く、恐ろしい暗闇だった。
そして、その目ははっきりとニクラを睨みつけていた。

ニクラ!!!逃げよう!!!
あいつ、普通じゃない!!!!!

ぱっぱっぷすはそう言うと、丘に向かって走り出した。
走り出したぱっぱっぷすはニクラがついて来ていないので、後ろを振り返ると、ニクラは波打ち際に突っ立っていて動いていない。

おい!!!!なにやってんだよぅっ!!!

ぱっぱっぷすはニクラのところへ戻るとニクラの肩を強くつかんで、引っ張った。

見ると、ニクラは目を見開いてじっと蛇の人間のような目を見つめていた。
身体が固くこわばって、ぱっぱっぷすが引っ張ってもびくとも動かない。
ぱっぱっぷすは目一杯の大声でニクラの耳もとで叫んだ。

おい!!!!!!!!!!!!
死ぬぞ!!!!!!!!!!!
動けっ!!!!!!!!!!!!
ニクラッ!!!!!!!!!!!

ぱっぱっぷすはニクラの頬を平手で思い切り引っ叩いた。

すると、ニクラはほんの少し瞬きをしてから、ぼんやりとぱっぱっぷすを見た。

ぱっぱっぷすは必死でもう一度ニクラを引っ叩いて叫んだ。ニクラの口の中が切れて血が出た。

ニクラッ!!!!!!!!!!!
逃げるぞっ!!!!!!!!!!

ニクラは口の中の血の味を感じてようやく正気を取り戻し、はっとした。

ぱっぱっぷすはニクラの腕を掴んで走り出した。
ニクラも何がなんだかわからないままそれにつられて走った。

そのとき、丘の方からキラが走ってきた。

ぱっぱっぷす!!大丈夫?!!

ぱっぱっぷすはキラに叫ぶ。

キラッ!!!戻れ!!!!!
逃げろっ!!!!!!!!!!!

しかし、そのときすでにキラの目と蛇の人間の目はまともに合ってしまっていた。
キラはそのまま固まり、蛇の目をじっと見つめて動かない。
ぱっぱっぷすは大声で叫びながらキラに走り寄り、キラのほっぺたも引っ叩いた。
しかし、キラはぴくりとも動かない。キラはニクラよりももっと深いところまで呪いにかかってしまっていた。

そのとき、やっとニクラも今起こってることがはっきりとわかった。ニクラも大声でキラを呼んで、近づこうとしたそのとき、辺りが急に暗い影で覆われた。
見上げると、上空に人間の目をした頭がここまで伸びてきていた。
人間の目をした頭は極端に大きく口を開いて、暗黒の中にキラを飲み込もうとしていた。
口の中は真っ暗で何も見えず、中から、ごぅごぅ、と音が聞こえた。
ニクラがキラとぱっぱっぷすに飛びつくよりも早く蛇の頭は隣にいたぱっぱっぷすもろともキラを一飲みに飲み込んでしまった。ぱっぱっぷすも一瞬のことに何も出来なかった。
蛇の頭はあっという間に沖合いに戻って行くと、そのまま海の中へ潜っていった。

ニクラはひとり、砂浜に残されて、呆然と7つの頭の蛇がいなくなり、波立っている海を眺めた。
しかし、ニクラはすぐに、ぱっ、と走りだして、砂浜で待っていたポルコに飛び乗った。ニクラは道端に転がっている荷台にたどり着くと、ものすごい早さで荷台を起こして、転がり落ちている3つのすばるからくりを荷台に積み、ポルコを呼んでさっき切り離したハーネスを結んでつないだ。
荷台の車はガタガタに壊れていたけど、そんなことは構わないでニクラは、速く!!と、ポルコに声をかけて、砂浜まで急いで戻ると、荷台から飛び降りて、3つのすばるからくりを次々に波打ち際におろした。

ニクラはモリをつかんで、荷台の片隅にうずくまって小さく丸まっているあめしらずをズボンのポケットに押し込むと、戻って来れない時のことを考えて素早くポルコのハーネスをナイフで切ると、イルカにまたがって、両側にいるツキとこすもすに手を当てた。すると、3頭のすばるからくりはゆるゆると動き出して、海へ入っていった。

海中へ入ってすぐにニクラは3頭のすばるからくりの空気の玉を一つにした。ニクラは必死でキラがやっていたことを思い出していた。
ニクラは3頭のすばるからくりと自分の力をひとつにして、思い切りスピードを出して7つの頭の蛇を追いかけた。すでにツキは、かなり遠くの方でキラとぱっぱっぷすはまだ生きていることをかすかに感じ取っていた。
キラとぱっぱっぷすは今、とても遠く、とても深い海の底にいるようだ。
その感覚をニクラもイルカもツキもこすもすも共有していた。
海の中にはわずかに小魚がいるだけで、ほとんどの生き物は姿を消していた。
7つの頭の蛇に恐れをなして、他の海へ逃げてしまったのだろう。

ニクラと3頭のすばるからくりはぎゅんぎゅんと泳ぐスピードをあげて、ただ無心に遠い真夜中の海の底から伝わってくる微弱なキラとぱっぱっぷすの命の感覚に向かった。
ニクラはひたすらに速く、速くと意識をイルカたちに送り続けた。
そのスピードはすでに生き物が出せる速度をはるかに超えて、やがて一筋の光となった。

その速度は凄まじく、はるか遠くの海の底まで来ていた。
その海底には唐突に大きな亀裂があり、底の見えない深い深い亀裂の下には邪悪な漆黒の世界があるのを感じた。ニクラと3頭のすばるからくりは迷うことなく邪悪な漆黒の世界に向かって亀裂を直滑降に降りていった。
ニクラはもう、キラとぱっぱっぷすに近づいているのを感じていた。

亀裂の中は漆黒の闇で太陽の光などほんのわずかも届いていなかったけど、しかし、一筋の光となったニクラと3頭のすばるからくりがあたりを照らしていた。
亀裂の中の壁は、奇妙な肉腫のようなボコボコとした灰色の塊が連なっていた。
これほど速いスピードでも、亀裂の底にはなかなかたどり着かなかったけど、やっとキラとぱっぱっぷすの命の感覚を近くにあることを感じて、ニクラは急激にそのスピードを落とした。
ニクラが止まると、そこは亀裂の底だった。不思議なことにニクラと3頭のすばるからくりは止まったのにまだ光を放ち続けていて、その光はじょじょに強くなっていた。

そこは鍾乳洞のような空間でゴツゴツとした灰色の塊と上から垂れ下がりどくどくと脈打っている奇妙な触手のようなものでまわりを埋め尽くされていた。奥の方までは光が届かずによく見えなかったが、ニクラは奥にキラとぱっぱっぷすの命を感じていた。
奥に向かってゆっくりと進んでいくと、やはりここは7つの頭の蛇の巣のようで、うねうねと動くそのしっぽが暗闇に紛れて動くのが一瞬だけ見えた。
あめしらずがズボンのポケットの中で激しく青く光っていた。
3頭のすばるからくりたちは間近にいる7つの頭の蛇に怯えていて、ニクラはそれを感じていた。
しかし、ニクラだけは怯えていなかった。ニクラはキラとぱっぱっぷすの命を感じることだけに集中していた。
そして、ニクラの強くしなやかに編み込まれた糸のような集中力は3頭のすばるからくりをひっぱって勇気づけていた。




Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.