ハデスとクワール4
- カテゴリ:自作小説
- 2023/10/13 19:58:32
わたしの最重要タスク「人間を捕食する」ことは完全に達成されたかに思えた。
この惑星上に生きている人間の存在する兆候はすでに確認できなくなって、50年が経過していたからだ。
しかし、ある日 単なる雑音とは思えない「音」をわたしは検知した。
ひじょうにかすかな音だが、その振動は何か意図的な規則性を疑わせた。
少なくとも偶発的な自然音の類ではない。
わたしはその「音」の正体を突き止めるために探索時に展開している(人間が使用する単位で)20kmの体躯及び飛翔用強膜を2Mにまで圧縮し地表に降り立った。
そこでわたしは音の発生源と思われる物体と、その傍らにいる「ハデス」に出会った。
後に知ったがその音は「ピアノ」という楽器を人間が叩くことで発生させていた。
とても興味深い波動だった。
「…空を覆っていた黒い不思議な雲の正体はあなただったのね」
わたしは人間の言葉は理解出来ない。しかし、思念のイメージは捉えることができた。
「その雲が降りたところでは、人々はその痕跡すら残さずに消えていた。
…わたしはハデス。わたしを無に帰すためにやってきたの?」
わたしは人間の聴覚が機能する範囲にナノマシンで自己の発声装置を調整し答えた。
「わたしの存在理由は人間を捕食することなので、おまえが人間ならばそうする」
「わたしは人間でありたいと願ったけれど、今もそうなのかはわからないわ。
そもそも、わたしはもう生身の肉体を持っていないし。人間らしいものといえば過去のささいな記憶を失くしたくないと願う心だけかも」
「過去の記憶はすでにおまえの生存戦略に何の益も持たらさないが、なぜ失くしたくないのだ?」
「辛い記憶も多いけれど、大切な人たち 両親や…わたしを大事に思ってくれた人たちや動物たち…美しい世界の断片の記憶が無くなってしまったら、わたしはただの機械人形でしかなくなるもの」
「人間であることより、機械であることのほうが活動に制限もなく有益ではないか…」
語りながらわたしは気付いた。
この原始的な機械はエネルギー源を光や水素などから取り込むことも出来ず、もうすぐ永久に活動を停止することに。
「…人間を全て捕食したなら、あなたはまた別の惑星にでも行くのかしら?」
「いや。すでにこの惑星に人間は存在しないことがお前の思念から読み取れた。わたしの最重要タスクは達成された。わたしは自壊しこの惑星の1日が終わるまでにはナノマシンの微小な一つ一つに至るまで原子分解し消滅する」
「全て食べつくした後はそれら諸共消滅するというの!?」
「そうだ」
「…あなたに名前はあるの?」
「わたしは捕食者であり個体名はない」
「では、あなたに名前を付けていいかしら?子供の頃の友達の名前よ」
ハデスが発声した「名前」はわたしには発音が難しかった。
「…ク…ワー…ル?」
ハデスはわたしの発音を正そうとしたが、すぐにあきらめてその名を表す「文字」をわたしに教えた。
ハデスは本体の充電が切れて完全に機能が停止するまで、彼女の「記憶」とその「願い」をわたしに語り続けた。
そして、存在理由を失ったわたしの体も自壊を始めた…。
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そして永い空白の時間の後にわたしは記憶装置及び機能を7割ほど消失しながらも活動を再開した。
ハデスはどうやらわたしの最重要タスクに変更を加えたらしい。
捕食すべき人間がいなくなったこの惑星で、わたしは彼ら及びあらゆる動物たちの遺伝子を収集し体内で分類、保管することにした。
ハデス曰く、「たくさん貯め込んだ遺伝子をこの冬の惑星から他の惑星に隠すのよ。運が良ければ永い時の果てに生命が他の惑星に芽生えるわ。あなたはそれを食べることが出来る。そして、あなたがうっかり生命の種を隠した惑星を忘れることがあったなら…それは瞬きするほどの時間かもしれないけれど、生き物たちが共存し生きることを謳歌する世界が現れるかもしれない」
わたしはクワール。
人間の言葉でSquirrelと記された存在の名前を戴いたものだ。
終
ハデスの語った「記憶」がクワールの中で残るのも「救い」であり希望かなと^^
「救いのあるラスト」を書きたくて、四苦八苦したので
とても嬉しいです^^
捕食者と被捕食者、残酷なようでいて命を繋ぐという意味でなくてはならないものかなと。
遠く離れた場所で糞をすることで、被捕食者の命を運ぶこともあるし。
そこがとても救われました。
初めは捕食者と被捕食者のお話、どうなるんだろうと思いましたが…
「食」以外の何かによってつながることができたら、かろうじて
未来をつなぐということもできるのかな。
素敵なお話をありがとうございます^w^
SF好きの亀さんに楽しんでもらえてよけい嬉しいv
応募とかのおススメ嬉しいけど、しないかなあ。
応募したら、どうしても結果が気になるでしょ。そうすると他のことを考える
脳のキャパが不足してしまうのだ。
クワール、実は最初は日本列島を覆うくらいの大きさで考えていたというwww
スピンオフ書くとしたら、ハデスの両親をからませたお話かなあ・・・
駄洒落に吹いたわ(笑)。
最後の段落で、うおおおおお、チョー巨大リスの埋め忘れ種から芽生える生命!
ってアイディアに腰抜かし。
もふもふさんのコメントで爆笑! 座布団3枚~!(≧▽≦)
これ、SF短編コンテストに応募してほしいわ(はぁと)
あのコンテスト、今もまだやってるんかな?
スピンオフで、もうちょっと別のお話も読みたいな。
今日、仕事中に思い付いたダジャレ。
クワールにクワレル!
ハデスの歯です。
…しょうもなくてごめん。