黒いピアノと黒い猫 7
- カテゴリ:自作小説
- 2023/09/23 19:36:40
父に叩かれて泣きながら家を飛び出した夜。
夜明けとともに目覚めると金色の瞳のあの猫がそばにいた。
朝の陽ざしの中で見ると、黒光りするその姿はがっしりしていてエゼルの倍くらい大きい。
そっと頭を撫でると「グルルル。ウォーン」と啼いた。
「お前に名前をつけようか。…バルドはどう?」
バルドはじっと僕を見て僕の指先を舐めた。
階下に降りるとテーブルの上の酒瓶はきれいに片づけられていた。
そして台所からいい匂いがしてきた。
テーブルにはブルーベリーの載ったパンケーキ。
父はちょっときまり悪そうに僕の前に座っている。
「食べなさい」父が言う。
「お父さんは?」
「さっき食べた」
僕はうそだと思ったけれど、何も言わずにフォークを動かした。
玉子もバターも貴重品になったのに、父はどうやって調達したんだろう。
「昨日は殴ったりして悪かった」父が言う。
「うん」
「お父さん、もう、嘘はつかないで」
「つかないよ」
「…エゼルは玄関前にあの姿で置かれていた。誰がやったのかはわからない」
やっぱり、父じゃなかった。
でも、どうしてエゼルはあんな目にあわなければいけなかったんだろう。
エゼルは何もしていないのに。
「僕たちがダヤン人だから?」
「そうだな」
「どうして?」「同じ人間なのに、どうして?」
ダヤン人は人間じゃない、そう言っていた級友の顔が浮かんだ。
「同じ人間だと思わない人達がいっぱいいるんだよ」
「お前に話しておかなきゃいけないことがある」
「以前、父さんの友人が家に来たことを覚えているかい?」
僕は頷いた。
「彼はネズミでね」
ネズミ!? 何かの比喩だろうか。
彼は同じダヤン人の医師の元で住み込みで下働きをしていた。
医師は看護人として働いている妻と、老いて歩けなくなった母親と3人で暮らしていた。
子供のいない夫婦だった。
夜明け前に、医師の自宅に突然特殊警察の制服を着た男たちが3人やってきた。
彼らは一家の家族の名前を確認すると、ストップウォッチを取り出し「10分間だけ待つ。これからお前たちを隔離施設に連行する。荷物をまとめて支度しろ」と命令した。
「待って下さい、母はこのとおり脚が不自由で歩けません。10分では・・・」医師が懇願すると制服を着た男の一人が医師の母親を撃ち殺した。
「では、お前たち夫婦二人だけでいい。それならすぐ支度できるだろう」
震えながらも医師夫妻がスーツケースに荷物を詰め込むと、彼らはトラックの荷台に乗せられ出発した。
ネズミも荷台にこっそり乗り込んだ。
トラックは駅で止まり、そこにはたくさんの貨物列車が並んでいた。
そこでも、夫妻はまるで荷物のように窓のない貨物列車に押し込まれた。
長い列車での旅の間に、動けなくなった者は無造作に車外に捨てられた。
ダヤン人が収容される隔離施設は清潔で衣食住が確保され、子供の教育も行われるという触れ込みだった。
だが、そこでネズミが見たのは子供の多くが施設に入る前に衰弱死していたこと。
老人や体力のないものはすぐに薬殺されていたことだった。
僕は恐怖で頭が真っ白になった。
「…僕ん家にも、そいつらが来るの?」
父は頷いた。「今夜かもしれないし、一週間後かもしれない。」
「だから、準備しておかなくてはいけない」
「準備?」「逃げる準備?」
「ああ。だが逃げる前に奴らに報いを受けさせる」
父の目がギラリと光った。
続
バルドの体格、メインクーンをご想像してくださいな。
次回がヤマになるはずなので、生温かく見守って下さいませ。
わたし、年寄りですがすぐ言葉の繰り返ししちゃいます(笑)。
子供だとカワイイんですけどね~w
その人種であるだけで人でないというのは、悲しいです。
そしてバルド、オス猫なんだろうけど…倍って@@
彼(?)の正体も気になるところ。
>「準備?」「逃げる準備?」
混乱していると、言葉の繰り返しで落ち着こうとするのが少年らしいなぁ。
続き、楽しみにしていますね。
関係ないけど、もふもふさんのアバターがどんどん若返っているようなw
スッキリするラストにしたいですv