Nicotto Town


どんぐりやボタンとか


部屋

これも何年か前に書いた小説。
かなり短編なのだけど、結構お気に入りで、たまに自分で読む。
これは自分としては、上手に一つの感覚を表現できたのかも知れないね。
では、お時間あれば読んでいってくださいな。













「部屋」



ちいさなボリュームでフローリングの床を叩く音は、一定のリズムをキープしている。
窓の外は晴れ。
緑が穏やかな風景。

部屋の中に生まれた一本の青いラインはのびやかに、伸びていく。
青いラインは空間の中で渦まいて、まがって、まっすぐになって、部屋中に網目状になって。

窓の外から部屋の中を見ると、やがて青いラインは部屋中の空間を覆い尽くして、そのうちよたよたとくたびれたようにひしゃげたり、たるんだりして、こんがらがったラインのかたまりの一部は床に落ちて力無く横たわった。

一定のリズムで床を叩いていた音は、静かになって部屋の中はみっともない悲しい青の残骸が残っている。

空高く円を描くとんびや、そよ風に揺れているきれいな花や、きちきちと鳴いているバッタや、誰もが生きる幸せに忙しく、部屋の悲しみに気づいてやれるものはいなかった。

かすかに息をしていた部屋は、つまらない静寂の中で、もうほとんど死んでしまっていた。

夜になると部屋のはるか上に月が現れた。
月はなにも言わずにそっと、部屋の亡骸を埋葬してやろうと手を伸ばした。
しかし、部屋はまだかすかに、とてもゆっくりではあるが、リズムを刻んでいた。

夜の空は雲一つ無く、星が瞬いていたが、部屋の中にはぽつぽつと雨が降り始め、やがてどしゃぶりになった雨に濡れて、青いラインは重くたわみながら、少しづつ溶けていった。

次の日の朝、窓から部屋の中をのぞくと、青いラインは部屋の4すみにごくわずかに残っているだけで、ほとんどが消えていて、床にはいくつかの水たまりができていた。
水たまりにはあめんぼやかげろうが泳いでいたけれど、昼になるともう水たまりはほとんど蒸発して、あとには行き場の無くなったあめんぼやかげろうたちの死骸が床にへばりついていた。
ぶうん、と蜂が一匹、どこから入ってきたのか。
部屋の空気は雨上がり特有の湿っぽい暑さで。
窓が開いたら、もし、窓を開けたら、きっと新鮮な空気と風が流れ込んで。でも、それは、かなわない夢なのだろうか。

























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2023/09/05 09:02
haticoさん、

う〜む、haticoさんのコメントはいつも核心をついてらっしゃって、面白いです!

おっしゃる通りなんです。
書いてくださってる感想の後半はまさにその通りで、そんな希望を示唆して、あえてそこの部分までは書いていないことでこの小説を完成させているんです。
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2023/09/05 05:59
一定のリズムと伸びるラインは心電図みたいだなあって
思って読み始めました
やっぱりこの部屋は生きていたんですね
面白い発想ですね!

静かに悲しみがやってきたけれど、
きっと、長い年月を超えて、コケが生え鳥が運んだ実から
植物が芽を出し、虫や小動物が集まり、また再び
生きる喜びに包まれる時が来るといいですね
お月さまに見守られながら と私は想像しました(*'ω'*)
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2023/09/02 22:17
べるさん、

読んでくれて、ありがとう!
でも、切なくさせてしまって、ごめんなさい(涙)

すいません、たまにこうゆうさみしい小説も書いちゃうんです〜(^-^)
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2023/09/02 18:09
部屋に命があるというのは面白い発想ですね。
何かの比喩だと思うんですが、読解力がなくてすみません(^^;

ただ、読んでて最後が切なくなりました。。。



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