Nicotto Town


どんぐりやボタンとか


小人とぐるぐる巻きの噴水 (10)

レコードプレイヤーからキース・ジャレットの「ザ・ケルン・コンサート」が流れている。
彼は相変わらずピアノを弾きながら唸り声をあげる。
小説を書く手をとめて、おれは彼のピアノと唸り声を聞いていた。
彼は自分の魂を指先に乗り移らせて即興でメロディをつむいでいくから唸り声がでてしまうんだろう。なんてことを考えているとき、後ろの部屋で絵を描いていたミルがやってきて、
彼は魂でピアノを弾いているのね。
と言った。

おどろいておれは、今、おれの頭の中を読んだの?全く同じことを考えていたよ。と言うと、ミルは笑って、そんなんじゃないの。ぼくもそう感じたからそう言ったんだだけだよ。彼のピアノ、とっても好きだよ。と言った。

ミルは最近、おれが小説を書いている間、絵を描く。
注文して送られてきた野菜が入っていたダンボールや、町で拾ってきた捨てられたベニヤ板に、ボッツェリーニがくれた(彼は若い頃美術学生だったらしい)油絵の道具や町で安く手に入れたオイルパステルで描く。
自分の身体よりも数倍も大きな画面に身体をくねらせ、キース・ジャレットやビル・エヴァンスのピアノに合わせて、ときにはローリングストーンズやレッドツェッペリンの唸るギターに合わせて、彼女の言語で歌を歌いながら、くるくるとめまぐるしく腕をめいっぱい使って絵筆を動かしていった。

おれ、ローレンス、ボッツェリーニ、そばかすのウェイトレス、レストランの常連客たちのおじさんやばあさんたちのの顔、窓から見える湖、おれたちが住んでいる家、家の前を歩くアヒル たち、テーブルにくっついたてんとう虫、屋根の上の空に浮かんだ雲、今日の朝食べたオムレツなどが一枚の絵の中に混在し、混ざり合い、溶け合ってあらゆる色を放っている。
中でも一番多いモチーフはおれの手と足だ。
おれの手と足は彼女にとっての特別なもののようで、画面のあちらこちらに点在している。
描き終える頃にはいつも、顔や身体にいろんな色の絵の具がついていて、まるでインディアンの呪術師のようになって笑ってた。

あるとき、町の画廊主が彼女の絵の噂を耳にして、わざわざうちを訪れたことがあった。
画廊主は、これをぜひ譲ってほしいと相当な金額を提示して申し出た。
しかし、彼女は、これはぼくの絵だからだめだよ。って断って、おじさんも自分で描いてごらんよ。楽しいよ。と言ってた。
おれはそばで見ていて、おかしくて笑ってた。
それらの絵はおれたちの家の居間やキッチンやトイレの壁に飾られ、そのうちの何枚かはボッツェリーニのレストランの壁にも飾られた。


町のまんなかに今度、噴水ができた。
5年も前から計画し、建造してきたものだ。
ぐるぐると床屋のアレみたいに巻きながら上にのぼっていくデザインで、きれいな石を積み重ね、白を基調としてところどころに青と黄と赤のアクセントのあるモザイクの模様になっていた。
噴水は四方八方に水がシャワーみたいに広い範囲で噴出され、ときに虹ができるものだった。
町のひとたちは嬉しくてみんな見物に来ていた。
こどもたちはずぶぬれになってはしゃぎ、おとなたちも一緒になって遊んでいた。
じいさんやばあさんはそれを見ながらほほをゆるませていた。

もちろん、おれたちも見物に行った。
ちょうど行った時間に人々の前で町長のあいさつがあった。
「みなさんのおかげで立派な噴水ができました。募金をして下さった方、建築を手伝って下さった方、応援していただいた方、これに関わっていただいたのは老若男女、すべてのみなさんです。ですからこれはみなさんの噴水です。
ありがとうございました。」

最後の、ありがとうございました。のところで人々から大きな拍手と 歓声が飛んだ。
町長は話を続けた。

「最近、また新しい出来事がありました。われわれの町に二人のすてきな仲間が増えました。さくみとミル、彼らはこの町にこの噴水のように素敵な彩りを添えてくれる存在であります。みなに紹介したいので、ふたりとも前へ出てきてもらえるかな?」

急なことにおどろいていると、後ろにいたボッツェリーニがおれの肩を押してみんなの輪の中心へと押し出した。
ボッツェリーニは口笛を吹いてはやしたてた。

大きな声援があがったので、おれは緊張して口の中でもごもごと、よろしくお願いします。とぺこりと頭を下げた。
するとミルがおれの肩からひょいと飛び降りて地面へふわりと着地するとすぐに、彼女の言語で歌いながら踊りだした。
ひときわ大きな声援があがり、ボッツェリーニが急いでまるまると太ったおなかを揺らしながら店の中からバンジョーを持ってきて、彼女の歌と踊りに合わせて弾き始めた。
ドラム缶を叩いてリズムを作るもの、バイオリンを持ってきて弾き始めるもの、手拍子で盛り上げるもの、みんなが何かを演奏して、どんどん音楽が大きくなっていった。
そのうちミルはこの国の言語で歌を歌い始めた。
この国のものなら誰でも知っている歌だ。
いつもボッツェリーニの店で常連客たちが酔っぱらうと歌いはじめる歌で、おれとミルもいつのまにか覚えてしまった歌だ。
噴水のまわりでみんながそれぞれの口からそのメロディが流れ、楽器たちの音と相まった音楽は町を包み込んでいた。
その後はもう酒も入ったどんちゃん騒ぎで誰彼構わずこどもたちもじいさんやばあさんも踊って歌っていた。
おれもしこたま飲まされてふらふらになり、途中でミルとふたりで噴水の演奏会を抜け出してきた。

ミルは、ああ、とっても楽しかったね。と上機嫌でおれの肩の上でまださっきの歌の続きを鼻歌で歌っていた。
次の日、おれは噴水のことを小説に書き、ミルは画面の中に噴水を描き加えた。
一日が終わり、また新しい文章と絵が生まれた。

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2023/08/26 10:18
ルルルのルさん、

彼女の絵は、面白いです(^-^)
でも、へたっぴです(笑)
でも、彼女のエネルギーと生きる喜び、そして、周りの人たちや生き物、自然への愛が溢れています。
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2023/08/26 10:17
べるさん、

はい、彼らの住んでる町はとてもおおらかな人が多い町で、ノリというより、楽しいことが好きな可愛い人が多いんです(^-^)

ミルは、確かに才能はありますが、彼女の才能は一つだと思います。
それは、自分やまわりの命をのびのびと表現することです。
それは時に歌となり、ダンスとなり、絵となります。
しかし、彼女は才能も確かにあるのだけど、それよりも何より、何も足枷やケージのない状態でのびのびと好きなことを素直にやれることです。そこになんのハードルもないし、うまくやろうなんて思ってません。
つまり、誰だってミルのようになれると、おれは思っています。
だって、ミルはただやりたいことをやりたいようにやってるだけだから。

ところが、多くの大人たちは、そこに自分で足枷をはめています。
「上手にやらなければならない」とか、「こうじゃなきゃならない」って勝手に自分に足枷をはめ、ケージの中に閉じ込めているんです。
そんなもの、本当は一切いらないのに。
ただ、好きなことを好きなように素直に自分が楽しむためにやればいいだけなんです。
ミル自身も「おじさんも自分で描いてごらんよ。楽しいよ。」と言ってるように。

なので、ミルはほんと、素直なだけなんです(^-^)
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2023/08/26 00:03
ミルちゃんの、作品、、見てみたいです〜
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2023/08/25 17:31
海外のみんな飲んで歌って踊り出すノリの良さは羨ましいですw

ミルちゃんは絵も描けるとはほんと多才ですね^ ^



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