刻の流れー121
- カテゴリ:自作小説
- 2023/08/18 02:34:17
そこは、モニターだらけの部屋だ。
いや、薄暗がりで闇に慣れた犬飼の目はREC用の赤いランプも見逃がさない。
レコーダーなどの機器が発する熱で冷房していても機械油のむっとする臭いがする。
犬飼はポケットから薄手の手袋を出して、手にはめた。
モニターの幾つかには、先ほど犬飼がいた大広間の映像が写っていた。
次々に、画面をのぞいていくと、裸の男と女が何組も映っている一連のモニターがある。
「ほお・・・」
犬飼の目は一つの画面に釘付けになった。
女に鞭打たれながら涎を垂れ流している男がどう見ても運輸省の高官にそっくりなのだ。モニターにはヘッドセットが繋がれている。犬飼はそれを片耳に当ててみた。
「・・・大阪に・・・空港が・・・」
「それは・・・漁師がうるさくて・・・」
「ふん、情けない事をおいいじゃないよ!」
女が鞭でぴしぴしと打つ。
どうやら、西日本に開港して間もない新空港の話をしているのが途切れ途切れ聞こえてくる。
「あ、あ、も、もちろん、ゆかり様のおっしゃるとおりに・・・」
「うふふ、知ってるわよ・・・」
女は満足そうに頷いていたが、やがて立ち上がると
「よくやったわ・・・これはご褒美よ・・・」
と、鞭を強く振りおろした。
男が悲鳴とも甘美の声ともつかない声を漏らす。
暫く一心に聞き入っていた犬飼はヘッドセットを置き、思い出したようにカメラを取り出した。
モニター画面がちゃんと写るかどうか疑問だが、画面がハレないよう、一絞り増やした。極力モアレが出ないように角度を調節しできる限り手ブレを抑えて撮っておく。
後はフラッシュを使ってモニターシステムを撮影しフィルム3本をあっという間に使いきった。
「さて、さて、次は・・・」
モニターを離れて、辺りを見回していた犬飼の目が、情報収集室の真ん中におかれた大きな机で止まった。
机の上にはビデオ・カセットが山のように積まれている。
近寄ってみると、カセットには各々マジックで日付と客の名前が書き込まれていた。
多分、内容は今モニターに映し出されている映像とおなじようなものが入っているのだろう。
「こりゃあ、編集長が小躍りするぜ」
中を見たい衝動にかられたが、腕時計を見ると11時15分前だ。
「11時と言っていたな・・・今、中身を確認いる暇はないか」
犬飼は、山の中からなるべく今政界や財界で幅を利かせている人物を選んで、ビデオを数本失敬していく事にした。
くじ運がいい事を祈るしかない。VHFのビデオカセットはかさばるので、ポケットに隠せるのはせいぜい4本だ。
「お、こいつはいい・・・」
犬飼はにやりとした。
カセットに記された名前の中に、先ほどの運輸省高官の名前を見つけたのだ。
「できたら後で返すから、ゆるせよな・・・」
犬飼は、にやけながら、モニターの高官にそう断って情報室をぬけ出た。
エレベーターのある角を曲がった時、後ろで男達の声が聞こえた。
どうやら、戻ってきたようだ。
「ビデオがなくなった事に気付くなよ・・・」
犬飼はほくそえんだ。
「それにしても・・・」
上の大広間を見たときは、単なる時代錯誤の紳士倶楽部かと思っていたが、これはとんでもなく奥が深いシンジケートなのかもしれない。
「モグラの穴か・・・」
その時、犬飼は編集長の言葉を思い出していた。
重複してました m(__)m
書き直しましたので よろしくお願いします