刻の流れー120
- カテゴリ:自作小説
- 2023/08/16 22:34:01
「いくつか、聞いていいか?」
「お答えできることでしたら。」
「ひろみは?」
秘書の女は、心持、気遣う顔つきになって、
「内田様は、お元気でいらっしゃいます。」
と、答えた。
「そうか・・・」
犬飼が頷くと、女は目を細めた。
「田中の執務室は、4階にございます。お支払いの件をお忘れなく。」
「ああ、絵と引き換えに、ひろみは無傷で返してくれるという事だな?」
「お約束いたします。」
なぜか犬飼は、女の言葉を信じられると思うのだ。
「そうか・・・」
と答えておいて、
「もう一つ・・・」
と、つづける。
『3110』は・・・斎藤 豊と言う男か?」
女は一瞬表情を固くした。
「・・・だとしたら、どうなのでしょう?」
「斎藤の目的は、なんだ?」
「さあ・・・」
「調べた所によると、情報室と言うのが、倶楽部のブレインのようだな?」
「さようでございますね。」
女はすなおに頷いた。
「で、斎藤はそこのナンバーツーだ」
「それは、倶楽部概要でお知らせしたとおりです。」
「ああ、そうだったな。そして最近そこのトップが死んで、実質室長に昇格した。」
「よく、お調べになりましたね」
「情報部室長と言うのは、かなりの権力の持てる地位なんだろう?」
「さあ、どうでしょう・・・」
犬飼は、構わず続けた。
「・・・斎藤の狙いは、支配人の地位か?」
黒幕が情報部ナンバーツーの斎藤であるとしたら、それはマスコミを使って、現支配人を失脚させ、自分が取って代わろうと言う算段というのが、編集長と犬飼の予想だ。
「それは・・・犬飼様にはご関係のないことですわ」
秘書は、視線をあらぬほうへ泳がせた。
「そうかな?俺が突っ走ったら、田中とか言う支配人を潰すだけでは終わらないぜ」
犬飼が不敵な笑みを浮かべる。それは、編集長も同様だ。ひろみを押さえられているとは言え、斎藤が望んでいると思われる結果は保証できない。
「あんたらが俺を選んだのは、人選ミスだったかもしれないって事だ」
女は、視線を犬飼に戻し、しばらくその鋭い目を見つめていたが、
「・・・あの方は、とても聡明なお方です。」
と、静かに言った。
「では、ご武運をお祈りしております。」
秘書は軽く会釈をして犬飼に背を向けた。そのまま廊下に出て、情報室の方へ歩いていく。入り口の男達と二言三言話していたと思うと、男達が一礼して、廊下のさらに奥に消えていった。女は扉を開けて中に入り、少ししてから、2、3人の男を連れてでてきた。
「でも、11時には戻ってきてくださいね。」
先の大男達と同じ方向へ向かう男達の背中に、秘書が声をかけた。
「了解です。」
男達が廊下の先に消えると、女は犬飼の潜んでいる方にちらりと視線を投げ、それから、自分も向こう側に歩いていった。
「秘書は、視線をあらぬほうへ泳がせた」って!
実は いつも声を出して 読んでいます
犬飼さんが不敵な笑みを浮かべたら 私も不敵な笑み?を浮かべます
頭の体操?です