自作小説倶楽部7月投稿
- カテゴリ:自作小説
- 2023/07/31 21:50:23
『女王の微笑み』
勝負に勝つにはね。何の勝負でもそうだけど対戦相手をよく知ることだ。例えば、あそこのテーブルでカードを睨んでいる若い男は鉱山主の孫だ。息子に先立たれた鉱山主の爺さんは孫息子を溺愛した。そして成長した奴が不良と付き合っても放蕩を重ねても、哀れな爺さんは奴に金を渡し続けた。
とてもそうは見えない?
そうさ、爺さんが元気だったのは去年の夏まで、病気を理由に親族は爺さんを病院に監禁して送金をストップさせた。来月くらい、いや今日かな。マネージャーが睨んでる。このカジノへの出入り禁止決定だ。
ウイスキーをなめながら勝負を眺めている紺のスーツの男はゲームがしたいんじゃなくてビジネスの相手を探している。抜け目のない商売人だ。付き合い程度のゲームはする。なかなか強いが大きく賭けることは絶対にない。
もちろん。初対面の相手とゲームすることもよくある。その場合は小さな癖や目の動き、着こなしや立ち振る舞いで相手のことを読み取るんだ。
君のこと?
そうだね。言葉遣いも食事のマナーも完ぺきだから、よっぽど上流の、しつけの厳しい家の出だ。だけど贅沢にも慣れている。お嬢様と使用人に傅かれていたんじゃないかな。きっと禁欲的な少女時代の反動だね。良いと思うよ。短い人生楽しまないと損だからね。
さて、休憩は終了。仕事を始めよう。君はあの太った男を俺のテーブルに誘ってくれ。見るからに初心者だが、新品で上等のスーツを着ている。太った良いカモだ。
頼んだよ。俺の勝利の女神。
♠
貴男が私をお嬢様だと言った時、思わず声を上げて笑いそうになったわ。
わたしが生まれたのは小さな田舎町で、両親も平凡で優しい人たちだったわ。でも両親が失踪して、親類にしつけの厳しい寄宿舎に入れられたからまったく外れたわけでもないわ。学校を卒業してからは生きるためになんでもやった。私の美しさは作り物で生きるための道具なのよ。両親の行方を突き止めることだけが私の生きる支えだった。優しいあの人たちが私を捨てるはずなかったもの。
そしてね。ついにわかったの。貴男のせいよ。
今では伝説のギャンブラーを気取っているけど最初はマフィアに使われて人を騙して、ギャンブルで借金を作らせたりしていたそうね。
私もね。貴男のことをよく調べたのよ。思い出したわ。私、若い頃の貴男に会ったことがあるわ。父の経営する商店で少しの間働いていたわね。ほかの人にもやったように父にも賭け事を教えたのでしょう? マフィアのボスの命令だと言い訳しても無駄よ。あの頃、町を牛耳ろうとした連中の中でのうのうと生き延びているのは貴男だけよ。
今日、貴男がカモにしようとした男は私の仲間よ。元役者だけど演技は現役よ。見事に貴男の描くカモ像を演じてくれたわ。警察にはシェークスピアって呼ばれているくらい。
私は『女王』って呼ばれているわ。
ああ、薬が効いたのね。もう聞こえていないかしら。ギャンブルで大負けして自殺する人間は多いから少しは誤魔化せると思うけど、貴男の愛人でいた間の私はものすごく目立ったから、警察は気が付くかもしれないわね。
協力してくれたシェークスピアには悪いことしたかしら。
主人公は復讐に生きたあと、救われたのかどうか、
ちょっと考えた紅でありんす。