仮想劇場『clouded moon』
- カテゴリ:自作小説
- 2023/07/23 21:22:23
あの夜、空は突然モノクロームになって、僕の眼球から色彩の全てを奪ってしまった。それを境にあらゆる権利を剥奪され、この星の住人であることさえ赦されなくなる。
昨日まで同じスローガンを抱いて酌み交わした友も、今ではすっかり他人様となりはて、住み慣れたあの家も今ではもう知らない誰かの宿り木。
それでも憐れとは思われたくはないから、僕は赤い首輪を口にくわえたまま野良犬を気取り過ごした。
moon、言い訳にしか見えない強がりの夜を背負って、星の見えない大地に吠えるしかない。
あの日、小さく芽生えた感情を大事にしたいと、咥え続けた首輪さえもポトリと落とした。それは色のない世界に自分を棄てるような速度だ。
何も見えないから僕は常に考える。何もわからない以上そうするしか手段がないから、今日見た太陽の破片と同じ数だけの言葉を綴り、明日あるべき自分の姿を創造して生きていくので精一杯。
弱気を理由に舌をだしたらそこであっさりと終る。そんな恐怖だ。
moon、痛みを口にしてもこの牙がある限り結局、全ては台無しになってしまうよね。
それでもいまだに僕は信じている。
いつかこの瞳にまた色彩が戻ることと、
キミを覆うその暗雲はちゃんと必ず晴れるということ。