Nicotto Town



幽霊との約束【2】幽霊騒ぎの真相

ここは、幽霊が出ると噂になっている元・ホテルの格安物件。今また二人の人間が屋敷に足を踏み入れる…。

「おおっ、いかにも出そうな雰囲気ですねぇ~」
「マリア、何で楽しそうにしてんだ?お前はよぉ~…」
『引き返せ~』『引き返すギュー』どこからともなく声が聞こえる。
「あれ?この声はさっきの…どこにいるんですかぁ?」
『スイ~、どこにいるかは教えないよ~』『教えないギュー』
「…おい、お前ら。ツノとかシッポが見えてるぞ?」指摘するトリオン。
『ちょっ、どこ見てんのよ!?エッチ!』『スイちゃん、自意識過剰だギュー…』
柱の影から姿を現したのは、2匹の小さな水牛であった。
「スイちゃん、ギューちゃん。こんなこと、もうやめようよ…」
マリアとトリオンの背後から野太く渋い声がした。
振り返ると、そこには不動産屋が言っていた「ホテルの制服を着た強面のマッチョな男の幽霊」が立っていた。
「ヒッ!?キャーッ!お化け~!!」
マリアとトリオンが驚くよりも先にマッチョ男の幽霊の方が悲鳴を上げていた。
「お化けはお前の方だろう?」当然のツッコミをするトリオン。

「僕はタウラス・マタドール。僕の代でね、ここのホテル、潰れちゃったの。ぐすん。
僕ってこの通り怖い顔してるし、体も大きくてマッチョで、声だってほら、玄田哲章みたいでしょ?
でもね、僕はホントは見た目ほど強くないの」
「タウラスって、スイとギューを見ただけでビビっちゃうほど臆病なんだよ」水牛のスイが補足する。
「スイちゃんの言う通りなんだ。でも、みんな、僕を見ただけで逃げ出しちゃうんだ。
そのうちにここには誰も来なくなっちゃって…寂しくて泣いてたら、また誰か別の人間が来て…」
「何だか胡散臭い奴ばっかりだったギュー」と、水牛のギューちゃん。
「幽霊騒ぎを利用して新しいビジネスを、とか。ここの建物を潰してゴルフ場を作る、とか。
ここの建物を居抜きにして娼館を経営して「ショバ代」や「アガリ」をふんだくる、とか」
タウラスの話を聞いているうちに、マリアはだんだんと居たたまれない気持ちになった。
「中には、タウラスが見えなかったり、タウラスを見ても驚かない人間がいてね、
スイとギューは、そんな人間たちからホテルを守るために用心棒してたの!
スイスイ!スイーパー!」水牛のスイは得意げにポーズをとってみせた。
「そうだったんですかぁ~」と、マリア。

タウラスの愚痴やぼやきや悩み事。壊れたがま口みたいに喋るタウラス。
そんなタウラスの話をマリアはずっと聞いていた。
何時間も話通しで、トリオンとスイとギューは完全に暇を持て余していた。
「マリアの奴、タウラスの長話によく付き合ってられるよなぁ~」
関心してるのか呆れているのかよく分からないトリオン。
「仕方ないギュー。今の今まで、話し相手になる人間が誰もいなかったんだからギュー」ギューは溜息をついた。
「スイ~!話が終わったみたい!あれ?タウラスの身体が…!」
タウラスの身体が光に包まれ、天に召されていく…。
「マリアさん、僕の話を聞いてくれてありがとう…ホテルはキミたちが使ってよ。
ひとつ、約束してくれるかい?」
「はい、何ですかぁ?」
「このホテルを昔のように賑やかにしてほしいんだ…!
ああ、これでやっとみんなの所へ行ける…。思い残すことはもう何もない…。
さようなら、みんな…。スイちゃん、ギューちゃん。マリアさんとトリオンくんのことを頼んだよ…」
タウラスはそう言って微笑むと、ゆっくりと成仏していった。

ーつづくー




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