仮想劇場『エール』
- カテゴリ:自作小説
- 2022/12/13 09:36:42
「きれいな花だっていつかは必ず散るんだもの」と彼女が言った。秋晴れの透き通る風とちょっとだけ汗ばんだ午後のことだ。
僕は表面の溶けかけたアイスを齧りながらそんな彼女の強がりを見つめていた。
「もういちど蕾に戻れたらいいね。冬眠するみたいにさ」
僕らの青春は時代の流れの中で重たく花開き、そして当たり前に枯れることができなかった。そして今も実を結ぶことなく懸命に咲き続けている。
彼女はそこで小さく首を横に振って涙を零した。
「いつか報われる日が来るといいね」僕に言えることはそんな程度で、あとはただ彼女にそっと寄り添いその背中を脅かす底闇の盾になることくらいだ。
こういった苦しみを誰かがわかってくれるとは思っちゃいない。ただ第三者に対してもし望むことがあるとすればそれは、この滑稽に開いた花弁の中の一つでもいいからちゃんと認めて笑いかけてほしいってこと。そもそもがして、たったそれだけのことで僕らはちゃんと散り乱れることができたんだろうからね。
祝いすぎた疲れからか、不幸にも黒塗りの高級車に追突してしまう。
後輩をかばいすべての責任を負った三浦に対し、
車の主、暴力団員谷岡が言い渡した示談の条件とは・・・