合言葉はPritender ③
- カテゴリ:日記
- 2022/12/11 20:58:56
朝 目が醒めて 自室のベッドから起き上がるときに
左手首に強烈な痛みを感じた
眠りにつく前の数時間を脳内検索した
習慣となった就寝時のマスク着用によって
その残り香で昨夜飲んだ酒を提供してくれた店を思い出せた
多分この手首は部分的に骨折してるだろう
町医者には行ってはいけない
感情に任せた あの最後の左フックは冷静さを欠いた攻撃だった
Pritenderの医療部に診てもらうしかない
自らの未熟を恥じながら 遠い地に住まう妻と娘達を納めた写真額を抱きしめた
〈すまん まだ帰られない〉
昨夜のあの時を だんだんと 思い出せてきた
S は突然現れた 私の面前
簡単な話し合いを申し入れてきた
それはもはや不要な交渉だった
顔なじみのPritenderに属する医師は
クリーニング屋の地下で私を診てくれた
「亀裂骨折ですが 神経や腱には影響はありません
おそらく10日前後で癒着します」
「それでは 私は 今まで通りの活動を続けても差し支えないのですね」
窓のない診療室で 医師は丸眼鏡を重々しく縦に振った
「あなたの”ダブル・トリガーは我々の希望の大きな武器です
そしてそれは今もなお健在です」
そうか
私はまだ戦わなくてはならないのか
誰が名付けたか ”2丁拳銃の※※※”
私の通り名
まあ持っている武器は昔と違って
中身はかなり変わっているけど
左の腱が生きてるってことは
明日(いや 今から)”2丁拳銃の※※※”は
再び動き始める
ほんとうにナマの手首を使わざるに負えなかった
昨夜の悪夢は忘れることにしよう
小汚いクリーニング屋のドアを抜けて秘かに自室に戻る
私がどんなに無残で惨めで悲惨な死に至ったとしても
妻と娘達にはどうか健やかでいてほしい
なにより私が未熟だったのは
兵器ではなく生身の攻撃に至ったことだ
だけどこれだけは言わせてほしい
S は我々を侮辱したのだ
なんか聞いたことがある
荒野の2丁拳銃
何世紀前の”映画”だったと認識している
(見たことないけど)
もういい 妻と娘達が無事なら それ以上望まない
Pritender達が守ってくれるだろう
さあ 明日は 私自身のダブル・トリガーが機能してくれるだろう
鎮痛剤を飲み 今宵も写真額を抱いて眠ろう
Pritenderに幸いあれ