【無題】第8回
- カテゴリ:自作小説
- 2022/03/15 22:25:50
ぴちゃ。
まどろみの中に外的な刺激か加わり僕の意識は睡眠から覚醒へと切り替わる。
ぴちゃ。
目を開くと寝起きのピントの合わない景色が数秒の調整を経て鮮明な像を結んでいく。
「げっ……」
その視界に映ったのは、シシルの寝顔だった、半開きの口から涎を垂らしているシシルの寝顔。
そして僕の額に滴り落ちるのはシシルの涎。
なんでシシルまで寝てるんだよ、監視するんじゃなかったのか?
僕の頭を膝に乗せたまま、前かがみでシシルは寝入っていた、ちょうど僕の顔を覗き込むような体勢だ。
心配して来てくれたのに、それを起こすのは可哀相だけど。
このままだとシシルの涎攻撃を受け続けることになるし、いや、アゴを押さえて口を閉じれば!
「えい」
右手でシシルのアゴを押さえ込み、左手の服の袖で額に垂れた涎を拭き取る。
うーん、この右手を上げたままの体勢は長く持ちそうにないな、腕がすぐ疲れてくる。
「とりあえず起きるか」
添えてる右手を離し、膝枕から体を起こすとシシルの体をそのままソファーに横倒しにする。
昔から寝入りが深いシシルは少々の事では起きない。
「寝顔を見るなんて久しぶりだな、寝顔だけ見れば普通の女の子なんだけどな……」
寝顔は普通でも中身は野生児だ、本当に寝てるだけなら人畜無害なんだよな。
どのくらい眠ったのかと時計を見ると3時間ほど寝ていたらしい。
人間の睡眠時間は3の倍数が切りがよく目覚められると聞いたことがある、3時間、6時間、9時間と体に良い睡眠時間のサイクルらしい。
徹夜明けの仮眠とはいえ、スッキリと疲れが取れている状態だ。
このあと僕がすることは一つしかない。
マジックでこのアホの申し子ことシシルの額に「ヨダレ魔神」と落書きをしてやることだ。
というのは冗談で、すぐにでも確認したいのは父さんの手紙に書いてあった地下室だ。
そこに行けば全てわかるらしい。
ただこのままシシルを放置して地下室に行ったら、目覚めたときにパニックを起こしかねない。
だから僕はテーブルの上にメモを書いて置いておくことにした、メモの横に手鏡を一緒に置いたのはちょっとしたイタズラ心だ。
書斎から階段を降りてキッチンへと向かう。
調理台や食器棚に囲まれて4人掛けのダイニングテーブルが置いてあるシンプルなキッチンだ。
床は板張りで50センチ角の合板が木目が交互になるように市松貼りしてある。
おそらくこの板のどれかが外れるようになっているのだろう。
生まれてからずっと住んでいたのに、ここに地下室があるなんて全く知らなかった。
そのキッチンの床を見渡して、入り口がどこにあるか考えてみるが、見当を付けるまでもなく昔から1箇所不自然に物が置かれていない場所がある。
よくよく見ると一箇所床板の継ぎ目に不自然な隙間を見つけた、ドライバーか何かを入れたら床板が持ち上がりそうな隙間だ。
ドライバーを持ってきて隙間に差し込み、テコの原理で持ち上げると同じように外れたのは四角く4枚だ。
1m四方の床の下地が見えたと思ったら、その下地に手を引っ掛ける用とおぼしき穴が開いている。
板を持ち上げてみるとその下から真っ暗な空間が顔を出した。
「ここだな」
壁伝いに縦に降りる梯子があり、それにつかまって降りてみると、上の開口部から差し込む光に照らされ壁に照明のスイッチがあったので照明を点ける。
「おお~、これが地下室か、だいぶ古そうな感じだな」
電球色に照らされた地下室は3m×5mくらいの狭い空間で、木製の机と本棚だけがある場所だった。
本棚には沢山のファイルのようなものが詰め込まれていて、その一つを手に取ってみると。
「魔方陣?」
そのファイルは全て魔方陣と魔導回路の書類の山だった。
見たことある簡単なものから、世に出回っていないような訳のわからないものまで多種多様だ。
いくつかのファイルを斜め読みし、次に向き直ったのは地下室の突き当たりに置いてある机だ。
机の上にはノートが置いてある、表紙には何も書かれていなく、そして本棚のファイルと同じく相当年月が経ったのか色もくすみボロボロに見える。
そのノートを手に取り中を見る。
手書きの文字が躍るそのノートの1ページ目にはこう書かれていた。
ここに記すのは私の半生に渡る出来事とその悔恨による懺悔とこの国の真の姿だ。
こんな事を私の子孫に伝えても意味が無いかもしれない、でもいつか私が犯した過ちを正す者が現れるかもしれない。
その薄い望みにすがるべくこの手記に真実を書き連ねていく。
こんな書き出しから始まる手記を、僕はなにかに取り付かれた様にただひたすらに読み続けた。
1時間だろうか、2時間だろうか。どれだけ時間が経ったかわからない。
手記を読み終えた僕はあまりにもひどい内容に現実感が揺らぎ、放心したまま椅子に体をあずけ天を仰いだ。
「これが本当だとしたら、僕達人間は……。
しかもあのシン・サクマが僕のご先祖様だったなんて」
シン・サクマ
魔導技師として200年前に名前を轟かせた歴史に残る伝説の人物だ。
魔法と科学を融合させて魔導技術を作り上げた魔導技師の第一人者、彼が居なければあの亜人との戦争は勝てなかったと言われている。
そして戦争終結後、魔導技術界の表舞台からぱったりと姿を消し、今もって尚、彼のその後については謎に包まれたままだった。
しかしこの手記には克明に記されている、当時、あの戦争を通して何が起こったのかが。
そしてその後の彼の人生についても。
壮絶な内容の手記を締めくくる最後のページに書かれていたのは。
シン・サクマの記憶を移したという魔導具の事についてだ。
人間の記憶を魔導具に移すなんて聞いたことがない。
というかまともな思考を持った魔導技師はそんな発想すらしないのだ。
恐ろしく難しく膨大な魔方陣を必要とするだろうその魔導具は、今目の前にある机の引き出しに入っていると書いてある。
ゆっくりと机の引き出しを開けると、そこには四角く黒い箱が入っていた、人の頭より少し小さいくらいの大きさで、表面には魔方陣が描かれている。
手記によるとこの魔導具は1度しか使えない、もし使ったら表面の魔方陣は消えるように細工がしてあると書いてある。
魔方陣が消えていないところを見ると、僕の父さんはこれを使っていないようだ。
手記の内容だけを頼りに母さんと旅立ったのだろう。
たしかにこの手記には必要な情報が全て書いてある、だから父さんは使わなかったのだろう。
なぜならわざわざ魔導具まで用意して移した記憶というのは、シン・サクマの前世の記憶だからだ。
「私の意志を継いでも良いという者のみ、私の遠い過去の記憶を共有してほしい」
それが彼の最期に残した願いだった。
僕は迷うことなくその魔導具の魔方陣に手を重ね、魔力を流し魔導具を起動させた。
迷うことなく魔道具を起動Σ(・□・;)
記憶の共有によってどうなるのか……
小説も書けちゃうんだ^^
わくわくっ!
登場人物のコーデをして挿絵にしてもいいかもですね^^
さーどうなるんだ~(*'▽')
続き、待ってました!
どきどきの展開・・・。