秘密生地異時空間・日本 イベント企画(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2022/02/03 13:23:53
小鳥遊管理官を気遣《きづか》いながらも優しく寝かせると、日野管理官は任務に戻った。小鳥遊管理官の分も背負《せお》い任務にあたる、日野管理官の背中を見て小鳥遊管理官は思った。
あなたが好き、です――
喧噪《けんそう》にまみれていた異時空間が、ふいに凪《な》いだ。良かった、いまのうちに体力を回復《かいふく》しよう、小鳥遊管理官はほっとして目を閉じる。
日野管理官、あなたの仕事をしている姿に憬《あこが》れて――
日野管理官、いつしかあなた自身を好きになっていました――
日野管理官、私の気持ちには気づかない、その鈍感さも――
「「大好きです」」
つぶやいた声が重《かさ》なった気がして、小鳥遊管理官は目を開けた。日野管理官の背中が見えた。日野管理官は振り向かない。でも? あれ?
日野管理官は背中を向けたまま、やはり振り返らない。日野管理官は異時空間を凝視《ぎょうし》していた。その視線《しせん》を追った小鳥遊管理官もぎょっとして息を吞《の》んだ。
小鳥遊管理官の心臓《しんぞう》が早鐘《はやがね》のようにドキドキしだした。顔が真っ赤になって止まらない。からだが震えた。
待って!――
小鳥遊管理官が心の中で叫ぶと、異時空間にその言葉が、追加表示《ついかひょうじ》された。
≪待って!≫
どういうこと?――
≪日野管理官、あなたの仕事をしている姿に憬れて≫
≪日野管理官、いつしかあなた自身を好きになっていました≫
≪日野管理官、私の気持ちには気づかない、その鈍感さも≫
≪待って!≫
異時空間に追加された言葉がポッと浮かび上がった。
≪どういうこと?≫
小鳥遊管理官は焦りまくった。と。そこに、自分の言葉ではない、新しい言葉が現れた。小鳥遊管理官は、完全に固まってしまった。
【鈍感なのは、あなたもだと思います】
「日、日野管理官?」
小鳥遊管理官が呼びかけるが、日野管理官の背中は微動《びどう》だにしない。
静まり返った異時空間に心の中の気持ちが、フヨフヨと浮かび、言葉が増えていく。
【僕の気持ち、全然気づいていませんでしたよね?】
「……」
小鳥遊管理官は、ドキドキがとまらない。私が鈍感? 日野管理官の気持ち? 日野管理官は振り返らない。
【僕もあなたが好きです】
異時空間に浮かび上がったその言葉が小鳥遊管理官の胸を甘く締め付けた。夢《ゆめ》なら覚めないで。小鳥遊管理官の目に涙が盛り上がってきた。視界《しかい》が滲《にじ》んだ。
ポロリ――小鳥遊管理官の頬を一粒の涙が伝《つた》った
日野管理官がゆっくり小鳥遊管理官を振り返りかけた、その時。
ザワッ。
異時空間が揺《ゆ》れた。日野管理官が、態勢《たいせい》をたてなおし一撃目《いちげきめ》の異力《いりょく》を受け止めた。二撃目《にげきめ》、三撃目《さんげきめ》と続く。
小鳥遊管理官も立ち上がると、任務を再開《さいかい》した。
「まだ休んでいなさ……」
日野管理官の背中に向って、小鳥遊管理官は言った。
「体調戻りました。大丈夫です!」
小鳥遊管理官は、頬に付いた涙の跡《あと》をふき取った。今は任務に集中することが重要なのだから。
徐々に異時空間に浮かぶ小鳥遊管理官の心の言葉と、日野管理官の心の言葉が、混《ま》ざり合《あ》い薄《うす》くなって、静かに消滅《しょうめつ》していった。
シーン
再び異時空間の動きが凪ぎ、異時空間に新たな言葉が踊《おど》るように現れた。
☆彡日野管理官、小鳥遊管理官、カップル成立おめでとう!☆彡
「「えっ」」
小鳥遊管理官と日野管理官の動揺《どうよう》する声が仲良くはもった。
☆彡小鳥遊管理官泣いたから、全員《ぜんいん》優勝《ゆうしょう》だよ!☆彡
「「へっ?」」
☆彡掲示板のイベント企画だよ。始めたのは掲示板の中の人☆彡
☆彡異時空間に読んだ心を表示するだけ、だったけど☆彡
☆彡こんなに想定《そうてい》どおり進むとは☆彡
☆彡大成功《だいせいこう》!☆彡
☆彡あっ、|苦情《くじょう》と問《と》い合《あ》わせは白崎管理官へどうぞ☆彡
☆彡はい! 解散《かいさん》、解散《かいさん》!!☆彡
どかどか子供たちが現れて、刻光《こっこう》している腕を次々と突きだした。
「帰るので、出間《しゅっかん》手続きをお願いします!」
日野管理官と小鳥遊管理官は、急《せ》かす子供たちの対応に追われた。
「ゲートアウト スペースタイムジャンパン シーユーアゲイン!」
待機中の子供が梨乃《りの》一人になった。
ほっと気持ちが緩《ゆる》んだ小鳥遊管理官と日野管理官の視線がパチッと合う。
「「!」」
弾《はじ》かれたように、お互い顔をあさっての方向に向けた。
ラストになった梨乃がニコニコと笑った。
「最後にいいもの、見せてもらったわぁ」
これ以上ないくらい真っ赤な顔になりながら小鳥遊管理官は、しかし出異時空間手続きはしっかりと執《と》り行《おこな》う。
「またね!」
梨乃が手を振りながら、出間した。
「あ、あの……」
小鳥遊管理官が勇気を振《ふ》り絞《しぼ》って日野管理官に、声をかけた。しかしである。
「てっ……定時《ていじ》過ぎてる!? まじでっ??」
小鳥遊管理官をガン無視して|素っ頓狂《すっとんきょう》な声を上げた日野管理官は、勤務を慌てて終了して、そして消えた。
「残業《ざんぎょう》|大っ嫌い《だいっきらい》病《びょう》、出たっすね~」
白崎管理官が、呆然《ぼうせん》自失《じしつ》状態《じょうたい》の小鳥遊管理官に、ちゃらっと声をかけた。小鳥遊管理官がジロリと白崎管理官を睨《にら》みつける。
「いろいろ画策《かくさく》したようですね! 白崎管理官にも言いたいことはたくさんあるんです。あるんですけどっ!!」
そこまで言って小鳥遊管理官は力が尽きて、その場にへたり込んだ。
「私より、残業《ざんぎょう》回避《かいひ》の方が大事なんですか、日野管理官……」
小鳥遊管理官の目から大粒《おおつぶ》の涙がぼたぼたと落ち始めた。白崎管理官が、ぎょっとして後ずさり、逃げる準備を始めた。
「あっ、俺も退勤時間《たいきんじかん》っす。シーユーアゲイン~」
独りポツンと取り残された小鳥遊管理官は、ウワァーンと声を上げ、滝《たき》のように涙を流し始めたのであった――
(「イベント企画」終わり)
小説投稿サイトでルビの付け方、微妙に違っているんですが、それを変換せずに、ここに転載している、単なる手抜き、ごめんです(大汗)
>トシrotさん
このお話、ルビを振ることを試みているんですが、正直、面倒です(笑)。ルビをどこまでつけるかを決めていないので、すごく適当にルビつけています。
この話、ニコットにアップし忘れたやつで、ハロウインのいたずらを企画したら、子供たちが何をやりだすかなというのが、最初の発想でした。
何か縛りがあったのですか?