ggrkp(ぐぐるカップル)
- カテゴリ:自作小説
- 2022/01/21 16:15:42
約束の時間の十分前に二人は駅の第三改札口前で落ち合った。
理玖と芽衣は、初デートだ。同じタイミングの到着が、二人の顔をほころばせた。
「相性、すごくいいと思う!」
「うんうん、いい感じだよね」
「どこに行こうか?」
芽衣がウキウキしてスマホを取り出す。理玖もスマホを開いた。
「ここはどう?」
二人は互いの候補を見せあった。芽衣のスマホには『憩カフェ駅前店』が、理玖のスマホには『山屋コーヒー駅ビル本店』が表示された。
「あれ、どうやって検索した? 僕はカフェと駅前とクーポンで検索したんだけど」
理玖が言うと
「初デートでクーポン……」
芽衣が露骨にがっかりするので、理玖は慌てて言い訳を口にした。
「何回も会いたいじゃん、クーポン使えばたくさんデートできるかと思っ……」
言い訳しながら、自分でもケチな検索だと気が付いて衝撃のあまり、理玖は言葉に詰まってしまった。理玖の様子に、芽衣も言い過ぎたとはっとする。
「言い過ぎたね、ごめん」
二人の間が一挙に気まずくなる。場を持ちなおそうと、理玖は必死になって会話の糸口を探した。
「め、芽衣はどうやって検索したの?」
「芽衣……」
いきなり呼び捨てにされて一気に距離をつめてくる理玖に、若干困惑しつつ芽衣は答えた。
「こだわりと人気、駅前で検索してみたんだ」
「こ、こだわり、かぁ……」
今度はクーポンを探した理玖が、引きぎみになった。理玖の様子を見て、芽衣も慌てる。
「私の検索の仕方、やりすぎだよね。理玖の選んだクーポン店に行こうよ」
芽衣は、顔を真っ赤にしつつ理玖と呼び捨てにした。そのまま、理玖の腕を引っ張りながら、ずんずん歩き始めたのだった。
初デートをなんとかかんとか成功させた二人は、まず検索をすることが暗黙の了解になった。
ggrkp――ぐぐるカップルが一組できあがったというわけだ。
事実。検索すると様々なことが提案されているし、参考になった。
カップルになって気を付けることから始まって、カップルの記念日もあったしカップルの相性占いもあった。参考になるなとググりまくっていた二人は、見つけた記事に衝撃を受けた。
「え、カップルの会う頻度は週一回が理想? だって僕たち……」
「うそっ? クラスメイトだから毎日会わざるをえない」
「会わざるをえないって、会いたくないんだ?」
「いや、そうじゃなくて! 長続きしたいのに、会い過ぎてるって言われても」
ネットの記事が全てではない、とわかっているはずがどうしても不安になってくる。
「同級生に秘密にするかどうかも、問題だよね」
スマホには友達や級友に秘密にするかどうかをアドバイスする人気『恋愛アドバイザー』の記事や動画をオススメしてくる。それらをチェックしながら、芽衣は悩まし気な顔を理玖に向けた。その顔が可愛いと鼻血が出そうになって理玖は、慌ててこらえた。
「からかわれる、かなぁ? いや、からかわれてもいい! 秘密になんてしない!」
うわっ、理玖はかっこいい、と思わず惚れ直した芽衣だが、更なる難問を見つけてしまった。
「親にすぐにばれてもいいの?」
「僕の方は大丈夫。芽衣のところは?」
「うーん……」
「様子見しながらかなぁ。みんなにばれたら、親の耳にもすぐ届きそうだよね。じゃあ、しばらくみんなにも、秘密にする?」
「そうなる……よね?」
同じクラスになって想いが通じ合ってカップルになったけれど、晴れてカップルになった途端、問題が次々現れるのは何故だろう? 湧き上がる疑問を口に出したら二人の間の何かを崩しそうだった。会話が途切れた二人はスマホに目を向けるしか思いつかない。
『カップル 話すことない』
『カップル 気まずい』
『カップル むかつく』
『カップル ケンカ 友人』
予測変換に見たくない関連ワードがズラズラ出てくる。大きななため息が二人から漏れた。ため息をついたことをきっかけに、再び会話を繋ぎ始めた。
「もっと楽しいイメージを検索ぅ、ウん……」
『カップル 楽しい』
「楽しい会話とか、楽しい思い出を振り返るとか、楽しく長続きするコツとか……。当たり障りのない内容だよな」
参考になりそうな、ならないような。微妙な記事なかり目についた。
そもそも恋愛アドバイザーというのは、恋愛をそんなに経験しているから、アドバイスできるということか? ならば何回も別れているということか? その経験あるからアドバイスできるとすれば、恋愛の修羅場を何度もくぐった猛者ということか?
そこまで考えて、改めて華やかな笑みを湛えている恋愛アドバイザーを眺めていると、ほほ笑みの裏側の別れのシーンがドコドコ浮かんできて、理玖はぶるっと震えた。
どうやら、芽依も似たようなことを考えていたようだ。
「ネットの記事って大勢に当てはまりそうなこと書いてあるけどさ、私たちのことを何ひとつ知らないよね。そうよ! ってか、このライターさん、誰っ!?」
芽衣が言葉を叩きだし、その勢いでスマホを叩き落しそうになった。理玖が慌てて芽衣の腕を抑えた。
「スマホ壊すのはっ! って、近っ!!」
「えぇっ!?」
二人はぎゅぎゅっと縮まった距離にドキドキする。
芽衣のスマホを持つ手の力が抜けてた。二人の影が重なる。スマホの恋愛アドバイザーの文章がスマホ画面に表示され続けていた。
『キスするタイミング? ドキドキの初めて!? 本物の恋に落ちるって? 徹底解説!!』
(おわり)
コメディジャンルへの投稿を考えて作ってみたのですが、「お笑い」って難しいですね。
文章でドカンドカンと笑いとるって、難しいものですね。それでも、文章で笑いがこみあげる作品はあるので、すごいなぁと改めて思います。
自分の話の良さって、正直、わからないものですね。引き込む力があるなら嬉しいなぁ。
トシrotさんの書いてくださったこと、読みながら、自分の味を出しつつストーリーごとに違ってみえる、そういう欲張りなことを目指してみたいなぁと。
ただ、こういう欲は次から次へと果てしないものだなぁとも感じています。
欲張りすぎることなく、いろいろ、お話、増やしていきたいです。
可能であれば、長い趣味としてやっていきたいです。
こうやって読んで感想いただける、有難いことだと思います。いつもありがとうございます!
でもぼうぼうさんのお話しの肝心って、アヴィさんの仰る日常のすぐそこにあるふわっと、またはホロっとするようなトコにあると考えています。
だから例えば”立派な泥棒がその主義に反して、殺人をするような泥棒への嫌悪感から警察と協力して事件を解決する!”なんて日常離れるにもほどがあるだろ!的なキャラクターを設定しても、その文章のそこかしこにある読者やぼうぼうさんの日常の景色が、読み手を引きこんでいく。きっと、そういうとこがぼうぼうさんの強みだとw
おわ~、ネットのまとめ記事の下書きしていたこと、覚えていらしたですか(汗)
恋愛アドバイザーは自称で名乗れること、下書きしてようやくわかったです。いろいろ世間を知らないのは痛感します。
ご指摘のとおり、その時の経験をベースに書きました。
お笑いになっていないのが、なんとも。人の感情を揺さぶる文章って狙っても書けるものでないのですね。
コントやってる方って凄いんですね。
>アヴィちゃん
最近はちんまりした感じの話になってしまいます。
スランプぎみで、文章がなかなか出てこないのですが、ひねり出していかないと、ますます文章が出てこなくなる循環になりそうです。
狙ったお笑いを書くって、すんげー難しいなぁとしみじみ。書いてみてわかるので、いろんなジャンルを試して書いてみたいのですが、どれもこれ難しいですね、うーん。
「あるひとコマ」いいですね。