Nicotto Town


おまわりさんコッチです!


【無題】 第6回

 最愛なる息子ライアスへ
 
 まず初めに謝っておく、すまない
 多分だけど僕達夫婦がいなくなってからすぐにここの手紙を読んでいると思う
 これは長年夫婦で話し合って決めたことで、ライアスももうすぐ魔導技師として独り立ちできる頃合かと判断し、実行することにした
 ライアスに黙っていたのは、やはり反対されるかもしれないと思ったからだ
 僕達はどうしても確かめたいことができた
 だけどそれをするには今の生活を捨ててその場所まで行かなければならない
 今、我々人間には時間がない
 何のために、そして何をしようとしているのか、ここに記すこともできるが
 自分でその答えをみつけてくれる事を信じている
 ライアスが魔導技師として世界を見渡したときに真実を手にしようとすれば
 いずれ必ず私達に会うことになるだろう
 そうなるように成長してくれることを心から願っている

 事の発端は先祖が残した手記だ
 私達はそれを見て心を動かされた
 ライアスも見ればわかるだろう
 手記はキッチンの床下に隠し地下室があり、そこにしまってある
 地下室にあるものは全て自由に使っていい
 
 最後に、私達夫婦に会う時には必ず孫を連れてくること
 これは絶対の約束だ


           トレイズより



「なんだこれは、結局核心部分はわからず仕舞いじゃないか。
しかも約束って、孫なんて絶対に無理に決まってるじゃないか。
そもそも約束ってのいうのは双方の合意で結ばれるものだろうに。
一方的なのは約束とは言わないよ父さん」

「なんて書いてあるの?」

 覗き込んできたシシルに手紙をそのまま見せる。
 そして読み終えたシシルが再び複雑な顔をしながら手紙を僕に返した。

「で、結局はおじさんとおばさんは無事なの?」

「多分だけどね、ここには居ないけど無事だと思う。
ここに書かれていることが本当ならあの事件は事故なんかじゃなくて、二人が立てた計画の一部だろう」

「よかったぁ~、もう私どうしたらいいかって訳わかんなくなって。
私なんかよりラスのほうがずっと落ち着いてるし、もうなんなの!」

 そう叫んだシシルは安心したのか床にへたりこんだ。

「あとはこの一緒に入ってた魔導回路を読み解くだけだな。
とりあえず父さんと母さんが無事っぽい証拠はでてきたから、シシルも一安心だろ?
今日は一旦これで家に帰りなよ」

「うう、わかった、そうする。
でも一つだけ約束して」

「何?」

「私の前から黙って勝手にいなくならないでね」

「もちろんだよ、僕は大切な人がいきなり居なくなるって恐怖を味わったばかりだからね。
そんな思いをシシルにさせるわけがないだろ」

「そうね、仮にそんなことがあったら地の果てでも追いかけて、ラワン材でプレスして合板にしてあげるわよ」

「コワっ! 死ぬから、それ普通に死ぬから、人間は合板の材料にはならないからね」

「冗談よ、赤松一等材で許してあげるわ」

「僕は赤松一等材で一体何をされるんだろうか」

「それはその時のお楽しみね。
じゃ、私は家に帰るね」

「立てるかい?」

 安心して腰が抜けてるかもしれないシシルに手を差し出す。

「ん、ありがと」

 僕の手を掴んだシシルは立ち上がると、制服のお尻をパンパンとはたいて翻す。
 どうやら腰は抜けていないようだ。

「また明日ね」

「うん、また明日」

 書斎から出て行くシシルを見送った僕は父さんの残した書類に向き合った。

「さてと、この魔導回路、一体何なのか確かめないとな」

 書類を一通り整理してみると魔方陣が91個に魔導回路の立面図が5枚の大掛かりな装置の設計図だった。

「これはとんでもない魔導具だな」

 世間一般に出回っている魔導回路はせいぜい魔方陣が10個以下のものばかりで、それ以上の複雑な魔導回路なんて見たことも無い。
 ところがこれは91個も使用しているとんでもなく複雑なものだ。
 おまけに見たことも無い新しい魔方陣も何枚か紛れ込んでいる。
 おそらくこの装置のために書き起こした魔方陣なのだろう。

「やっぱり父さんと母さんはすごいな」

 僕は改めて両親の技術力の高さに脱帽した、こんなの並の魔導技師に作れる代物じゃない。
 ニールスさんが言っていた無から有を創り出すというのは、きっとこういうことなのだろう。

「でも……」

 僕にだって理解できない訳じゃない、これを読み解く知識はすでに持っている。
 
「やってやるさ」

 いままで生きてきた中で一番ワクワクしている。
 両親が行方不明だというのに、不謹慎だなんて考えが吹き飛ぶくらいに僕はこの魔導回路に魅せられていた。
 次元が違いすぎる。
 一枚一枚魔方陣をめくるたびにかつてないほど興奮しているのがわかった。

 時間さえ忘れ読み解くのに没頭する。


 やがてどれくらいの時間が経ったのだろう。
 気がついたら暗かった窓の外は朝日に照らされていて眩しく輝いている。

「もう朝か」

 一晩没頭した割には、全然眠くない。
 それどころか脳はばっちり覚醒している、いや、興奮しているといったほうが正しいかもしれない。

「これはとんでもない装置だな。そうすると父さんと母さんは今……」






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