Nicotto Town


おうむたんの毒舌日記とぼうぼうのぼやき


三姉妹―一子、二子、三子の物語 第五話

 第五話 『姉妹を巡る世代』

 「|叔母さん《おかあさんの姉》が遊びに来るよ」
 高岡母《おかあさん》がウキウキして三姉妹に伝えた。
「叔母さん?」
 二子《つぎこ》と三子《すえこ》は会ったことがない。一子《いちこ》も首をひねりながら
「確か、私が赤ちゃんの時会ったことある、って話だったっけ」
 赤ちゃんの時のことだから、一子も当然その記憶にない。
「楽しみ」
 高岡母の嬉しそうな表情は、三人がいつも見ている表情とはどこか違っていた――


 「お邪魔します」
「入って、入って」
 叔母さんが来たようで玄関で高岡母の声がウキウキしている。
「素敵な家だね~」
 入ってきた叔母さんは、高岡母と似た雰囲気を醸し出している。しかし、
「……老けている」
 二子がぼそっとつぶいやいた。一子が二子の腕を慌ててつつく。おかあさんが年をとったらあんな風になるのか? 三姉妹は高岡母のテンションが上がるのを得も言われぬ感情で見つめていた。

 「飲み物を準備してくるね」
 高岡母がキッチンでゴトゴト楽しそうに用意しはじめた。叔母さんは話相手を求め、三姉妹に顔を向けた。
「大きくなったね」
 叔母さんが、一子に話しかけた。大きくなったねと言われて、どう返事をすればいいのか、一子は正解がわからない。
「は、はぃ」
 とまどう一子をわかっていると言わんばかりに、叔母さんがウンウンと頷いた。
「覚えているわけないわよね、赤ちゃんだったのだから」
 叔母さんは勝手に納得し、一人でくすっと笑った。再び、三姉妹を順番に見つめ
「三人ともよく似ているね」
 としみじみ言う。
 叔母さんが来てから微妙な気持ちにジワジワ支配されていた三人。最初に口を開いたのは二子だった。
「よく似ているって言われるのですが、私たち全然似ていないと思います」
 すると、叔母さんがまたウンウンと頷いた。
「そうなんだよね、私とあなたたちのお母さんも、小さい時、同じこと言っていたもの、あはは」
 この叔母さん、なんでもわかっていると言わんばかりの態度だけど、まだ会って十分もたってない。私たち三姉妹のことをなぜわかると言い出すのだろう? 気に食わないなぁと三子は心の中で毒づいた。
「あなたたち三人いっしょに映っている写真、見分けついて当然、と思うのでしょう?」
 当たりまえのことを叔母さんは尋ねてきた。自分と姉妹の区別ぐらいついて当然ではないか。
「それがね、大人になると何故かわからなくなるの。私とあなたたちのお母さん、小さい頃いっしょに映った写真を見ても区別つかなくって。ほんと不思議」
 叔母さんと高岡母の小さい頃の写真なんか見たことないけれど、区別つかないなんて、叔母さんはアホかな? と一子は言いたかったけれどこらえた。
 二子は、口が無意識にとんがってきた。高岡母と叔母さんは、違う、全然違う、断じて違う!
 三子は理由を考え始めていた。叔母さんに意地悪されているわけでないけれど気持ちがザワザワするのはなぜ?

 叔母さんは、姉妹に嬉しそうに話しかけてきたが、三人は叔母さんとの距離を測りあぐねる。
 叔母さんは、三人の姪の気持ちを全く意に介していないようにみえる。その叔母さんを咎めるでもなく、高岡母が浮かれていることが、三人には解せなかったのだ。
「お姉ちゃん、お茶より牛乳なんだよね?」
「え」
 キッチンからきこえる高岡母の声に一子が反応しそうになりつつも、耐えて押し黙った。一子に呼びかけたのではなかったから。おかあさんは、叔母さんに向かって『お姉ちゃん』と呼びかけたのだから。

 高岡母の苦笑いを含む声が続いて響く。
「牛乳といえば」
「あの話だね、なつかしい」
 叔母さんがふふっと笑い、高岡母の声が上ずって聞こえてきた。
「私が受験で『お姉ちゃん』の部屋に泊まった時のこと」
「独り暮らしの部屋に受験生が泊まりに来たからね。狭い部屋であんたが寝不足にならないように考えたんだよ、あれでも。受験に遅刻させないように緊張していたし。朝食も食べさせなきゃだし」
「感謝していたし、それが、なぜあーなっちゃたかなぁ」
 高岡母の声がいつもおかあさんの声でなくなっていた。小さな子供に戻っていた。
「あんたの気持ちはわかっていたよ」
「うぅ」
 三人を完全に置いてきぼりにした会話が居間とキッチンの間で続き、終わりそうにない。

 「お姉ちゃんは、一子ちゃんのことだもん……」
 すでに口がとんがっていた二子は目も三角形になっていた。出てしまった言葉は、思った以上に大きく、高岡母と叔母さんの会話が止まった。
 二子に続いて三子が高岡母のいるキッチンに向かって言った。
「おかあさんにとって、『おねえちゃん』って誰のことなの?」 
 三子が一子の腕を引っ張った。三子の目には涙が少しにじんでいて一子と二子は驚いた。あの冷静沈着な三子とは思えなかったからだ。

 叔母さんはふぅと息を吐きだす。
「あぁ、そうか……」
 叔母さんは呟いて、柔らかな視線を三人に向けた。三人は目をパチパチする。叔母さんの笑みが一瞬、高岡母にそっくりだったからだ。が、叔母さんは、すぐ叔母さん自身の笑顔に変わった。

 少し困った顔のおかあさんがホットミルクを持って居間に入ってきた。コップを叔母さんに渡しながら、三姉妹にもはにかむような顔を向けた。
  
 
 高岡母に渡された温かいミルクを叔母さんは目を細めて飲んだ。静けさが居間を包む。
 叔母さんは、おかあさんとの思い出の続きに浸っているのだろうか? 三子は中断してしまった話の続きが急に気になってきた。
「さて、みんなの顔も見たし、そろそろお|暇《いとま》するわ」
 叔母さんはコップをテーブルに置くと言った。
「えぇっ、まだ時間あるでしょ?」
 高岡母が本気で引き止めている、と三人にはわかった。
「慌てたくないの、じゃあ、元気でね」
 叔母さんは立ち上がると早かった。叔母さんがスタスタ出て行くのを高岡母が慌てて追いかけて、玄関に向かって姿を消した。

 バタン――玄関のドアが閉まった。

 「叔母さん、嵐のように去っていったね」
 一子がポツリ。二子と三子は黙って叔母さんの飲んだホットミルクの入っていたコップをしばらく見つめていた。

(おわり)
 

 小説投稿に熱中した二年ほどを経て、なんぞスランプ気味になってきました。
ぼちぼち、細々でも継続していきたいなぁ 

アバター
2022/01/07 08:30
>トシrotさん
!!、叔母さんと伯母さん、間違えていたです!でかい間違いですね。修正せねば~。
親せきのおじさんおばさんとの接し方、よくわからなくて困惑していて、今は逆に姪や甥と会う世代になってやっぱり世代の違いにとまどうものですね。
三姉妹は、ゆっくりお話作っていけたらいいなぁと思っています

>アヴィちゃん
読んでくれてありがとうございます!
アヴィちゃんのお話のような、スケール大きいのは自分にはとても書けない、です。
スケール大きいお話も書いてみたいので憧れるのですが、ベースになる知識が圧倒的に足りない
のです。説得力のある文章は、ベースの裏打ちされた安定感、読み手に伝わりますものね。

自分の描けるお話を、継続的に書いていきたい。
日常的なことにふと気づきがあってそういうの、三姉妹はそういうお話をちょっとづつ書いていけたらいいなぁなと思っています。
アバター
2022/01/07 00:47
こういった日常をじっくりと書けるといいなあと思います。
私はなんだかワサワサした作り事しか書けないので・・。
アバター
2022/01/06 19:58
 えーっと、、、伯母さんがお姉ちゃんで、叔母さんが妹さんで、三姉妹のママの姉ちゃんが来たんだと思うwww ちなみに私は全員伯父で叔父はいませんでした。父が末っ子。で叔父の介護の手伝いに通ったなぁ、懐かしいんですよ。
 母方には叔父がいます。だから「姉ちゃんは意地悪だった」とか姉弟ゲンカ話なんかも面白おかしく聞けます。三姉妹もそうなるといいなw 伯母さんがささっと帰ってくシーンはすごく悲しいけれど、すごく優しいですよねぇ。
 このお話、私の姪も4年生になるですけれど、1~2年に一度しか会わないじゃんか、毎回説明したり思い出してもらうんだけど、姪からしたらこんな気持ちなんだろうなぁって、寂しくも嬉しくもかさねて感じるお話です、ありがとうございます。コービッドでもう何年も合わないから、完全に覚えちゃないだろな。私はどうでもいいんだけど、私の父と母は寂しいはずなんですね、それがいちばん堪える。。
 書いてくれるぼうぼうさんはタイヘンだろうけれど、ミドモは楽しみにしています^^



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