Nicotto Town



仮想劇場『ラブくないようで実はラブい』


 小さく息を吐きながら彼女の訪問をただ待つ。
 時計の秒針がキリキリと油の抜けた音を刻んでいる。
 呼び出しのベルは鳴らせない。それでも通知は常にONだ。

 僕にかけられた制限は僕自身の罪が作り出したもの。
 そこに異論を唱えるほうが不自然だから黙ってそれに従っている。
 人生の大半を不自由の中で果敢に過ごす。
 他人目に見ればバカなのかも知れないが何も不満はない。
 今手に入るであろう総てを僕は常に手の内側に抱いて生きている。

 やがて無音の中に彼女が現れ、情を秘めたまま細く小さな呼吸を繰り返す。
 口には出さないが愛を持って僕はここにいる。
 彼女の痛みが僕の罪を庇いつつも揺らす時、
 彼女の憂いに呼応する瞬間、僕の中心からは常に狂おしい音がする。
 その音に名前を付けるとしたらそれもまた『愛』だ。

 だからこそ僕は彼女の訪問をただひたすらに待つのだ。
 いつか彼女が報われる日を信じて、いつか彼女を抱きとめることが出来る日を夢見て。

 綺麗事すら真っすぐに吐けない上等な人間様には決してわからないだろう。
 僕がここに踏みとどまる理由も、彼女がそこで踏みとどまる訳も。
 そしてこの愛が愛以上に狂おしく、そして何よりも熱帯びているその理由も。











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